「覗き見は最低だろう。なあオマエもしかして、」 ああそうだよ、俺は最低なお前から髪を掴まれている雷蔵に好意を抱いて仕方がない下らぬ男だよ。 取り返しがつかない。そうは思わなかったが、広い夜の庭で花がボトリと真っ逆さまに落ちてしまった。 (言ってしまった) 「よかったね、雷蔵。今日も俺から玩具にされないね、竹谷に玩具にされるんだね」 警報がなる。 「もう二度と戻って来ないからさ、こんな部屋」 ニヤッと独特の笑みを浮かべると、彼は颯爽と血の匂いがする部屋を出ていった。直ぐ様に、頑丈な牢獄内に存在するような、鉄製の扉がしゅるんと閉まり、そこは綺麗に隔離される。 「有難う、はち」 床から弱々しく上体を起こしたのは、紛れもなく三郎から弄ばれていた雷蔵であるが、俺は情けなくなり感情的に任せ抱き締めてしまった。「痛い」と言われるけれども、慰めるにはこの方法しかないと思って疑わない。 (痛かっただろう、なんて) 容易いではないか、痛い以前に痛々しいのだから。 それに強姦される手前だったのか、雷蔵は泣きそうになりながら着物の裾をユルリとただす。そして、帯すら巻かずに抱きついてきた。誘っているのだな、と。ホウとして安心感に満ち満ち、君を抱くのはゲーム開始の六日目になる、夜半。 ルールなんて、三郎から殺される前に雷蔵を助けてあげればよいのだ。そうすれば、成功さえすれば、俺は雷蔵とずっと一緒に隣にいる事が出来るのだし、もし、もし俺が勝てば三郎は死ぬのだし。 ただ、自由を手に入れさせてあげたかっただけなのだ。 「はち大丈夫?息、」 「これぐらい平気」 「走ってきてくれたんだね」 走らなければ、 君、殺されるだろうに、あいつにさあ。 「歩いてきてくれてもよかったんだよ。僕、まだ生きてるもの。ほら左指はあるよ」 「…なッ…!」 「驚かないで、八」 最近オカシイ君の発言。 警報が鳴って逃げるように走って、三日目の13時間59分58秒までは無傷で助け出していたのだが、14時間0分0.2秒からは、愛しき人が血みどろになっている。俺はそんなに、遅く走ってはいず、死ぬように走っている懸命と。 (なのに、これは、) アイツが時間を操作しているのではないか、そう考えると背筋がゾッとした。ゾッとしたまま悪寒が離れないので雷蔵を抱き寄せて首筋に顔を埋める。 (今日(コンニチ)が強姦の手前だとすれば、もしや明日(アス)は) そうはさせまいと、ガラガラした気分のまま、雷蔵と長い堪らぬ情事を優しく終えると、深い眠りに自ら。離さないと誓えども、 それがカラカラに変わるとき、喉の飢えを探すように覚醒する。腕(カイナ)に大切なものは、いなかった。 「だめじゃん竹谷、俺の雷蔵をシッカリ抱き締めていてくれないと、」 ゲームをしようと軽率に言い出した三郎の顔が、憎いこと。どうせお前は、絶対有利に立つために何かを企んでいたのだ。 三郎が雷蔵に歪んだ愛情を叛けている事は前々から知ってはいたが、あいつが、雷蔵を俺に譲るハズは毛頭ない。 それが、七日目に目覚めた途端、暗い庭の白い花が一斉に散りだし、あまりの回りの綺麗さと縛られた四肢に身動きすら取れなくなってしまっているうちに、もう君は――、あいつの懐に溺れている。 (どうして腐って色づくのに、白色なのか) 簡単に、腐るのに。 「どうして白いかって?それは結論が出てるというのに、頑張るお前の幻像だからだよ」 白い部屋で雷蔵を組み敷きながら三郎は笑う。 「はちの嘘つき、僕、三郎に殺されちゃうじゃん」 白い部屋で三郎に組み敷かれつつ雷蔵は泣く。 (嘘だ!) 漆黒の薄い壁が目の前で自身を覆った。その先は、三郎の甲高い笑い声と、必死に「嘘つき」と俺の名を叫ぶ雷蔵のか弱き声、が、ある、のみ。 「はーい、ゲームオーバー」 開始から七日目の6時間44分43秒、俺は脚を蝕む白い花と漆黒の薄い壁の向こう側から愛する人の切ない喘ぎ声を聞き、狂い狂い、狂い腐ってゆくのだと。 6秒0.0003秒後に想像した。 end ← ×
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