「雷蔵、」

竹谷が声を掛けたのは、間違いなく雷蔵であった。

「ハチって凄いな、いつも僕だって分かる。僕が三郎の真似をしていても、ハチだけは僕のことを間違えないよね。どうして?」
「どうしてって言われても…俺は雷蔵に声掛けてるだけだしなァ」
「それが凄いよ、だって絶対間違えないもの」
「でも三郎が木下先生に変装してた時は見破れなかったよ」
「ふふ、僕の事は絶対分かるのに、他の人の変装は見破れないってどういうこと?」
「んー、雷蔵だけは分かるって事かな」

にっかり笑った竹谷の笑顔に、雷蔵は頬を染めた。夕暮れ時のため、雷蔵が頬を染めている事は、竹谷には分からなかった。




「ねぇ三郎。三郎はずっと僕の顔をしてるけど、いつまで僕の顔でいるの?」
「ずっと雷蔵の顔でいるよ」
「じゃあ僕が任務に失敗して追われる身となれば、僕の顔した三郎も追われるよ」
「じゃあ一緒に逃げればいいんじゃない?」
「もし三郎が僕の顔をして追われる身となったら、僕も追われるってこと?」
「俺はそんなヘマはしないよ」
「でも、もし二人共追いつめられてどっちがどっちだ、なんていうことになったら三郎どうする?」
「どっちがどっちかなんて見破れる奴などいないから大丈夫」
「もし三郎を殺しに来た人がいたとしても、どっちがどっちかなんて見破れないとでも思ってる?」
「え、それってどういう意味、」


カタン、障子がゆっくりと開く。

そこには刀を持った級友の竹谷が笑顔で立っていた。


end











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