「なんで三郎は関係のない人たちまで殺しちゃうの!殺すのは必要最低限って僕さっき言ったよね?なんで出来ないの?どうして?」 雷蔵は声を荒げて三郎を叱咤した。 しかし三郎は謝りはしなかった。顔を伏せただけだった。だって、と言い訳を始めた。それを雷蔵は見抜いている。だから三郎に何も言わせないよう、雷蔵は三郎を追いつめた。 「僕との約束守れないの?」 三郎はこういう類の言葉に弱かった。それを雷蔵は知っている。 けれども、どうにもならないことも雷蔵は知っていたし、そんな雷蔵の苦労は竹谷が知っていた。 「雷蔵、これは三郎のクセみたいなもんなんだよ。だから雷蔵、怒らないで」 雷蔵は竹谷のこういった言動を聞くと、竹谷は心底優しい人だと感じた。だって、と雷蔵がついつい呟いてしまう。 「ごめん雷蔵、八左ヱ門の言うとおり、これはクセだから仕方ないんだよ。でも大切なことだと思わない?証拠隠滅って忍には切っても切れない縁みたいなもんってこと、ね?」 「じゃあなんで子供殺したの、女の人殺したの」 「それは殺さなきゃいけない相手の家族だったからさ」 「三郎は間違ってるよ、ハチはそんなことしない」 雷蔵は竹谷を見つめた。竹谷は困ったように笑って、雷蔵の頭を撫でた。 「うん、しないよ。俺だったらできるだけ生きててもらいたいから殺さない。それがどんな人であっても、助けるよ」 「ほら、ハチはこんなに優しい」 腰に手を当て、雷蔵は再び三郎を叱咤した。声は響かない、昼間の真っ最中。 三郎は、うなだれた。 「…間違いなんてものはなにもない。殺された方が喜ばしいことだってあるよ、雷蔵」 「そんなのはないよ、三郎」 「じゃあ手も足もちょん切られた雷蔵はどっちを選ぶ?」 三郎は得意げに喉を鳴らした。 「俺は血だらけで達磨になった雷蔵を、殺してあげるよ。だって、痛い痛いと悲鳴を上げて苦しむ雷蔵は見てられない。早く楽にしてあげたい。苦しんで生きるより一瞬で命を無くす方が絶対にいい。苦しんで生きるのはダメだよ」 一瞬だから痛くない、そう言った。そのあと、竹谷はこう言った。 「俺は血だらけで達磨になった雷蔵がどんなに必死に殺してと悲鳴をあげても殺さず大事に大事に一生側に置いておくよ。だって、生きててもらいたいから。だから絶対殺さない。どんなに願っても殺さない、死ぬのはダメだよ」 「雷蔵、どっちがいい?」 「選んで、」 end ← ×
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