「鉢屋君、探したよ」
きみはその文字にさえも気付かないなんて、可笑しくて面白くて左拳の中で紙がグシャグシャに、穢く踊って、いる。

「何してたの?」
「ん、勉強」

一人でするなんてズルい!と如何にも微笑ましく頬を膨らまされると、どうにもならない笑顔で俺は夕日を見るように目を細め、すんなり謝ってしまった。
さながら不器用の有り様だと、そう感じる。だから、その謝りに謝らなくていいのにホントに君はどうしたらそこまで、優しすぎるのだろう。


睫毛がふと映っては、邪魔だと罵るが。

「"愛しい"って意味、雷蔵は解るかい?」
それを妙に聞きたくて
「うん、分かるよ」
それだけの答えが欲しかったのだ。
それなのに、然らば丸い目で言うので、本当に解っていないのだと思い、その代わりに手を握ると君は不思議そうな顔を致す。
(なにも感じていないのか、)
「鉢屋君の手、冷たい」

顔を鼻先までくっ付けて、嫌と言われる程に見つめたけれども、
(動悸も感じていない?)
「鉢屋君の目の色、すごく綺麗だね」


畳に転がり、丸まった紙屑は、数えられない程になって回りを埋め尽くしていた。歩けぬ前にこれじゃあ床を汚したと怒られてしまう覚悟をし、紙に滲んだ墨をジリリと見射る、それから。

( 柔 ら か い )
「…どうしたの?」
「だからさあ、」
「うん?」
「鈍感だなあ、雷蔵は」

手を握ったって接吻したって、その丸まった紙の内に書いてある事を、転がる紙屑を、ちゃんと見ていないんだろう。そして気付いてもいないのだし。
(気付いて欲しいのに、いい加減)


「結局きみは、愛ってどんなものかちゃんと解ってないじゃないか」
「ううん、分かってるよ」
(君の"分かっている"は字体の事だろうよ、ああ苛々する)

「分かってたら気付くだろう、その丸めた紙の中、とか」
「…じゃあ、鉢屋君は深く分かっているの?」
「勿論、」


手に触れてもう一度、正確には君と初めての二度目になる接吻を何気無く、こうやって。
(愛と言ふのは)

「ねぇ今日の夜、俺の部屋においでよ。連れて行ってあげるから」
「うん」


三度目の接吻は舌を。
だって君、
 君から口を開いたのだもの。

end


一年の最後ぐらい。
雷蔵の鈍感さは猫被りで本当は凄く求めてる形の鉢→←雷。
愛を解っている鉢屋と
愛を分かってる雷蔵。

やっぱり変なとこで鈍感らいぞう。











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