「雷蔵、三郎どこに行ったか知らない?」
「知ってるよ」
「どこにいる?」
「目の前にいるよ」

三郎にそっくりな雷蔵はゆっくりと喋った。落ち着いていた。地面に落ちているのは地面に張り付いたような、少し黒くて焦げている青い制服だった。

「くっそ…あいつまた逃げたな…」
「三郎がどうかしたの?」
「木下先生が三郎のこと呼んでるんだよ。それが結構怒ってる感じでさ…。あいつ木下先生に何しでかしたんだか…。つーかアイツ見つけなきゃ俺が怒られるんだよ…ヤダなぁ」
「ふふ、兵助は友達思いだね」
「いや…三郎のためっていうか…自分も怒られたくないだけっていうか…」
「優しい兵助ぇ!でももう三郎を探すのはやめて?兵助が可哀想。どれだけ探しても兵助には三郎を見つける事はできないよ」
「だよなぁ、三郎は変装の名人だし…それに逃げの達人でもあるし、」
「うふふ、そうそう」

日暮れが近い。夕日が眩しい。
雷蔵は三郎と全く似ていない表情で哂った。その哂いは誰に向けた哂いであったのか、やけに甲高く、気分の高揚も含まれていた。

「はい兵助、これ上げる。僕ね、一生懸命ここで芋焼いてたの」
「…ああ、有難う」
「兵助、木下先生に怒られると思うから芋食べて元気出しなよ」
「俺怒られるの前提なんだ…」
「だって兵助ったら三郎見つけられないんだもん」

雷蔵は蟻の行列を覗き込むように、それはそれは楽しそうにしゃがみ込むと、少しの落ち葉とわけのわからないものを手で払い、そこからおいしそうに焼けた芋を何個も取り出した。それらを胸に抱え、雷蔵は嬉しそうに笑った。

「これハチにあげるの」
「そんなにいっぱい?」
「うん、ハチは焼き芋大好きだから」
「俺だって好きだけど、」
「そうなの?」
「それに勘右衛門や三郎もいるから、そんなにいっぱいハチに焼き芋あげてたらなくなっちゃうだろ」
「勘ちゃんはさっきたくさん食べていったよ、焼くの手伝ってくれたんだ。ハチもね、色々手伝ってくれたから…感謝のつもりでいっぱいあげるんだよ」
「…そっか、そりゃ何も手伝ってない俺は焼き芋一個が妥当ってとこか。」
「そんなこと言ってるつもりじゃないけど…」
「なぁ、三郎にもあげた?」
「ううん、あげてないよ。三郎にはあげない」
「どうしたの、喧嘩でもした?」
「なんでもない。…ハチのとこに行くから、じゃあね兵助」


栗色の髪が揺れた。
俺はなぜか焦燥感に駆られながらも、もう一度雷蔵に同じ事を聞いてしまっていた。どうしても木下先生に怒られるのが嫌だったのだ。我ながら、なんて浅ましい臆病者。ふと、会話を振り返る。見事に頭から言葉の意味すらスリ抜けている。


「ねぇ雷蔵。三郎は結局どこに行ったの?」
「え、目の前にいるってさっきいったでしょ。ずっといるよ、そこに」



目の前にあるのは芋を焼くために集めたのであろう少しの落ち葉と、よく分からないもの。その中に、やはり地面に張り付くよう青の制服がそこにある。

「人体が焼けた、独特な匂いがする…。」

呟いた俺自身の言葉が答え。俺は雷蔵からもらったおいしそうな芋を地面に落としてしまった。
吐き気を催し、空っぽな胃は痙攣し、その場で胃液を吐いてしまった。


end











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