「兵助ちょっと待っててね」
「うん、いくらでも待つよ」
「ごめんね、兵助」
「ねぇ…手伝うよ?」

雷蔵の左手首を掴むと、冊子のような薄い本がパサリと床へ落ちてしまった。
それを目で追うなり、次の瞬間には視線が合わさっている。気まずいと感じたのかどう思ったのかは分からない。雷蔵は右手を棚に乗せたままだった。

たくさんの本がドド、と真横に倒れる。せっかく綺麗に整列した本たちが、わらわらと棚からこぼれる。どうしたものか、落ちてくる本が雷蔵に当たらないように、自分自身は必死だったのだと悟ってしまった。

「大丈夫?雷蔵」

夕焼けの日差しは差し込んでいない。眩しくはなかった。

「僕は大丈夫だよ」

押し倒してしまったような体勢の真下で、雷蔵はにっこりと笑う。
その笑顔がどういうものかは分からないが、拒まれてはいないのだと思う。視線はずっと合っている。どうしようもなく、心が熱い。

「手、握っていい?」

雷蔵が頷いたので手を握ってみるが、どうにもこれは幸せすぎた。

「本の匂いも、雷蔵の匂いも好きなんだ」
「変な兵助、」
「だからもうちょっとこうしていたいんだけど、いいかな?」
「うん、いいよ」

そっと顔を雷蔵に近づけた。温かい。
今更口実も何もないけれど、臆病な自分の実感と刻む時間の疎ましさ、消えてしまえば良いと思っている、確実に。
好意を寄せてもらいたい。

狡賢さを鼻で笑うと、微塵もなく名残惜しさは消えていた。


end











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