図書室の陽当たりの良い一番奥の席、ここは雷蔵にとっての特等席でもあり、雷蔵の隣に座る竹谷の一等席でもあった。
iPodではなくS770シリーズのブルーの小さな長方形を操作して、雷蔵はいつも音楽を聴きながら参考書を読んでいる。

一方、竹谷はというと、図書室で一緒に勉強しようと雷蔵を誘っておきながら、自身の集中力は遥か彼方へ飛んでいた。期末試験の成績が痛々しい彼にとって、何とも目を背けられぬ厳しい現実である。しかし、その現実よりも雷蔵の側にいる今の現実の方が、竹谷にとってはとても心地良い。

そして30分程たてば、雷蔵は溜め息をついてイヤホンを耳から外し、全く勉強しない竹谷を心配し始める。そしていつも授業で分からなかった所を丁寧に教えてくれるのだ。
勘右衛門のように鋭く要点はつかないが、鉢屋のように教え方は上手くないが、久々知のように意見はまとまっていないが、雷蔵の一生懸命に教えてくれる姿勢が竹谷はとてもとても大好きだった。


「いつも有難う雷蔵。俺、こうやって雷蔵の隣にいるだけで幸せだ。一人で勉強しなきゃって思うけど、雷蔵が教えてくれるから甘えちゃうんだ、ごめんね。ああ、できれば勉強終わって帰る時さ、手を繋いで帰りたいって言ったら雷蔵は引くかな?そんでさ、…あともうちょっと長く雷蔵を送りたいよ。あのコンビニまでとか、遠慮しないでいいのに、家まで送るのに…。ああ俺はダメだなぁ、雷蔵大好きだよホント……って…男の俺から告白されるとか気持ち悪いよな。やばい、片想い超泣ける…。でも俺はずっと大好きだよ雷蔵」


雷蔵がイヤホンをはめて音楽を聴いている時、こうやって平気に好きだと言える自分は何て臆病なんだろうと竹谷は強く思っている。

「雷蔵は聞いちゃいないのにさ…」

虚しいと感じている。虚しいと感じながらも分かっていながらも、自ら抑制し、想いを伝えられない自分自身が一番歯痒かった。
(小さい人間だな…)
ほろりと涙が出る。


その涙が乾いた頃に雷蔵は時間通り溜め息をつき、イヤホンを取ってブルーの小さな長方形を机にゴトリと置いた。それは綺麗な色であった。

「ハチ。」
「…に、睨まないで…ちゃんと勉強するから…!」
「僕も、ハチと同じこと思ってるよ」
「えっ?何が?」
「なんでもない」




(あのね、僕、イヤホンしてウォークマンの電源入れるけど、実は音楽なんて聴いてないんだよ。)


end











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