「お前のそれ、なんてぇ名前なの?」


そう言ってニカリと笑った。その笑みはまだ僕の頭の頭蓋骨の中の中、外套にゆらゆらと眠る。視覚だって視神経鞘を振動させる程に、神経を断ち切る程に。
感覚だって侵害だって、頭頂葉から爪下皮までビリビリと来てる、いつも。

その時僕は、確かに初めて心を許したのだった。



「こいつはホントにお前が好きなんだな」
「こいつじゃありません。ジュンコです」
「うん、そう!ジュンコ」
「わざとらしいですよ」

眉間に皺を寄せた顔で、包帯を巻いた竹谷先輩の薬指を見た。根元から分厚くなって一層のこと心配を引き起こさせたのだが、またこの人は無理をしたんだなって、それだけで。

「手、大丈夫ですか…?」
「なんだよ伊賀崎、その棒読みは」

本気の事です。
今更ながら。

包帯に血が滲むと全て紅く染まるのか滴るのか、上に居ねるのか下に垂れるのか、左に流るるのか右に破裂するのか。
(どっちでもいいのだけど)
そんな事を考えるのはよせと頭を撫でられたものだから、目を瞑り僕は脳の停止を願い乞い、想わない。
貴方が僕をどう捉えて映しているのかさえ、聞いてもきっと、頭を掴まれて元結がほどけるまでわしゃわしゃと揺らされる。

「竹谷先輩は、僕に初めて話しかけてきてくれた方です」
「ん、そうだっけか?」

クスクス笑われた。どうして笑うのでしょう。
でも、その気取らない笑顔が、大好きだったりする僕は、何も考えようとはせずに首に巻き付くジュンコの頬を、小指で愛しく優しくゆっくり撫でる。
横に寝転がる先輩の髪、にも。触れて撫でたい。きっと指先に絡んで先には行かないけれど。



「ねえ竹谷先輩。その指先、ジュンコに咬まれたりしてませんよ、ね?」

声は消えていた。
消えた個体に繋がるがっしりとした腕の先、その中指は紫色に腫れ上がり、既に肉体を蝕み始めているのでした。嫌だなあ、先輩ったら。僕に心配をかけまいとして耐えられない体の変化を黙ってらっしゃったのですね。
僕、初めて、屍に死にますよ、そう注意しちゃったじゃないですか。



(もっと早く言ってくれれば、助けてあげられたかも知れないのに。)
脈もふれない。

今度は左腕に巻き付く愛する毒 蛇。
「怒らないで、僕はいつだってジュンコが一番なんだから、」


第1固有底側指神経まで感じてしまった小さな小さな哀しみの事、

貴方は毒蟻の餌なのです。


end











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