君からは毎年毎年、汚い字のお手紙が届いて、僕はクスリと目を細めて笑うの。 いつもいつも、その手紙の端には血痕がついていましたよね、覚えていますか? それが、ぱったりと消えた今、君は僕の目の前に僅か右寄りで、しっかりハッキリ踏み止まる。 「しょくまんに花をと思ってね、」 ズイと差し出された揃わない赤色の茎、は、妙に無惨な形をしていた。 きっと君のことだから、憎き者の首を引きちぎるように、そうっと、花びらが無くなってしまう現実のような哀しき人間らしく。お花、らしく。 留も喜んでいるよ、言った後の君の口からは 「…死人は所詮口無しだと、そう思うけど?」 是なのです。 全く瞬く、いつから冷たくなってしまったんだ。留はもう2年程前、既に冷たくなって綺麗な青い土に埋めましたが。けど、けど、君はその冷たさでは現せぬ冷たさを纏って僕を眼球と云う牢獄に入れる。 その、右掌に握っている温かい刀からして、数本の鍵が血生臭いのだもの、耐えられないのだもの。 何をしてきたの。僕は鉄格子の奥からそう思い、そう聞いたような気がしてなりませんでしたが、何をしているの。そう聞いていたのです、奥から奥から。 ギラギラ目を光らせる彼には、もはや他人事のようなのに! 「いさっくん」 にっこり、見張り兼残虐許可証明書を持っている君は、賢明に笑う。 見慣れた笑顔だったのに、いつもあんな風に笑って笑って一緒に食堂へ行っていたのに、何故コワイと感じてしまうのか。黒い忍装束が血だらけじゃあ、ねえ。そのニオイじゃあ、ねえ。君、血ではなく泥が似合うのではなかったの、 ね? まさか。怯える程ではない。ズルぅリ歩む君に、少し肩が揺れるだけで。 グラぁリ、狂ってしまい鉄格子がグニゃリと見えているのはどちら様でしょう。 情けなく、舌を噛み千切って楽になりたいわ。 「なんだか思い出に耽ってしまって。みんなに会いたくて逢いたくて殺してしまったんだけどね、後はいさっくん、いさっくんだけ、お前、おまえだけなんだよ」 (さあ、噛み千切ろうか) その前、に。 せめてもの瀬戸際としては、皆死んだ事を何故僕に言ってくれないの。治せたかも知れないのにね、僕は限界まで治すつもりですよ、はいそうなんです、律儀なもので。 うふふって、可笑しいの。皆死んだのだから言えるわけないよって、たった今、小平太が言ったのにね。 僕も君に殺されて終わりなのにね。 あのさあ、死んだら留の横、青い土の横、赤い土の中に僕を埋めてね。これぐらいは分かるかな、分からない?だって君、無茶するなって昔から言うのに無茶ばっかりするんだもん。 それなのに! 「何をそんな、死ぬ準備をしているの?私はいさっくんを殺すつもりなんてないんだよ、」 グサリ、自分の首に刀を刺したまま、小平太は言う。 みるみる眼球の色が変わり、鉄格子が赤黒く染まって吐き気が及んだ。 「ほら、私は鍵を持っているから、ちゃあんと助かる。分かるよね、持ってるからね、」 首から刀を引き抜き鉄格子の中へ投げ、牢獄の重たき鍵を自身の首に埋め込む。そのお加減に首の反対側からも血が噴き出しては雨のよう。 どうしてすんなりと刀は、僕の隣に居座るの。 (鍵を返して!) 「いさっくんは不運だね」 目を開けたまま動かなくなった小平太は、真っ黒な鉄格子の数メートル先で白い歯を見せ横たわる。 「首に、埋め込まれた、鍵、が、取れないよ」 僕は泣いてしまった。 君からの手紙はもう一生届かなくて。 僕はもう一生此処から出られなくて。 死ぬ事しか選択がないので、情けなくなりました。臆病な僕は小平太みたいに自ら首を貫けません。 転がった血でたくさんの刀を握ってみるけれど、 (ああ、やっぱり僕は不運だなあ) 遠くから、小平太の頬をそっと優しく撫でました。 end ← ×
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