(何でだろう?)

薄い透けた板を隔てて手のひらを合わせてみるでもなく、こうした機会をもらえ再開した事に喜び合うこともなく。
僕たちをしっかりと観察しているオジサンは黙って僕たちの会話を聞こうとしている。腰には拳銃が差してある。
別にどうでもいいことなのだけれど、僕と三郎の世界観は一週間前に見事に変わってしまった。

「どうして君は人を殺してしまうの?」

僕は一週間前のことを話に持ち出したのだが、これは400年ぐらい前の話も持ち出したことになる。
「またその話?頭おかしいんじゃないの」
と、三郎は言った。
だけど僕はどこもおかしくはないし、当たり前のことを言っている。

ちらりと表情を見てもう何も、その事について聞くのはやめた。
(怒りっぽいんだもん、あんなに前は僕にベッタリだったくせに、ムカつく。僕が少しでも構わないとイジけて寒い夕刻まで屋根の上に、一人寂しく座っていたくせに。あーイライラするなあ三郎には)

「なに怒ってんの」
「…怒ってない」
「怒ってんだろ、その顔」

口のきき方だって、凄く悪い。僕をお前だとかてめぇだとか、たまには口をきいてくれなくなる時だって、たくさんあった。
ヒドイのに、どうして僕はこうやって会いにきちゃうんだろう。

「会いに、こなければよかったかも」
「俺だって、お前なんかと会いたくねーよ」
「でも、ずっと待ってたんだもん、僕ずっと…」
「つーか、なに変なこと言い出してんの?お前相変わらずウザってえ」

(すっかり変わってしまったし、三郎の記憶もすっかり無くなっている)
僕は僕の生まれ代わりである。だけど三郎は三郎の生まれ代わりではなかった。

「僕、三郎に会いたい。三郎とずっと一緒に居たかった、何で先に死んじゃったの」
「は、お前本当気持ち悪ィ。帰れよお前」

ドライな目を向けられた。ピアス拡張を楽しんだ後が、片耳を痛々しくしている。三郎は鬱陶しそうな顔で僕を見る。三郎の奥に立っているオジサンは、僕を哀れんだように見た。

時間は刻々と過ぎる。
「どうして人なんか殺したの、三郎、ここから一生出れないんだよ」
言ってみると、やはりウザったそうな顔をされるのだが、今度はオジサンまでもがウザったそうな顔をした。
(転生なんて、信じてくれないよね、僕だって信じられないほどだったから、そんなこと無いって馬鹿にされるって少し分かってるし)

「来世で会おうねって言ったの、三郎だったのに」

三郎は席を立つ。手錠の鎖がジャランと鳴った。
さよならも言われない。鉄の扉は開かれる。僕は「時間です」と面会を停止させられる。
僕はこの時間が、とてつもなく嫌いです。


「ばいばい三郎」
「不破」
「…なに?」
「人を殺すのに理由なんかあるわけねえだろ、お前だっていつか殺してやるさ」
「そっ、か」
「ああ畜生。あの時代、幾ら人を殺しても罪にはならなかったのに…」

(君はくだらなく分からない人でした。優しい声をしています。)
「三郎…?」

扉は音を立てて静かに閉まる。


end











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