朝方に降った雨が葉を重くし、車を下りると同時に鼻先へと滴が落ちた。
後部座席に放り投げていた新聞紙に包まれた花束は、小脇に抱えども黒いスーツには似合わない。

「あー寒ィ」

湿った道を歩く。久しぶりではなかったのだが、今歩きながら飲んでいる缶コーヒーは久しぶりだった。目的である前に着いたら台に置こう、そうすると君も飲めて残りは俺が飲める。君もコーヒーは久しぶりではないのだろうか、カフェラテをよく飲んでいたのは見たことがある。俺はそんなチャラついたもんなんか大嫌いだったけどね、君が好きだったから諦めていたよ。だから黙って見ていたよ。


「もうなんだか、花束は花束なんだが、長さがバラバラしていて、まとまりがない。ああコッチ折れちゃった、ごめん、でも綺麗だから許してくれるかな」

許されると解釈をして新聞紙を踏みつけた。包まれていた色鮮やかな花は花立の中に在る。俺が花を切る鋏などを持っていないせいで、綺麗な花は汚くなって花立におさまり醜い、汚い、醜いと叫び続けていたのでライターで炙りたくなってしまった。

「あ、」

気付くとCAMPANOLAの腕時計に花弁が一枚だけ恨むようについている。せっかくの紺瑠璃が桃色とは、息苦しい。
(どちらが目障りなのだ、鬱陶しい)
だからって君が悪いわけではないのだよ、そう心で唱え、花立の横に置こうとしていた缶コーヒーの存在を忘れて今思い出す、自暴自棄になってしまいそうだ、もう今更だからと四度唱え結局君は缶コーヒーを飲まなかった。

「食べ物が全てお供え物と言われる気持ちはどんな気持ちになるの?」

しゃがんで骨壺をがむしゃらで取り出しギチャギチャ開けてはガリガリ食べた、ゴシャゴシャと音がなった、君は物体になっている、硬い固体に。


(ああ此れは)
理想であり、そして何かを装った午前二時二十九分の現実食欲で思考異常な君を想う後の行動で御座いました。

end











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