「ズキズキと痛む、眠れない」

満月でもない夜のことだったので、布団の上で屈む鉢屋の顔が、歪んだように見えなかった。
蝋燭に火をつけようと手探ったが、それさえコロコロと転がってしまい、行方さえ分からなくなっている。

「大丈夫、三郎」
「ううん死にそうだ」

雷蔵は背中を擦った。
目の前でこんなにも友人が苦しそうにしているのに、最早友人と呼べる軽いものでは無くなっていたのだが、雷蔵は冷や汗を浮かべているだろう友人を健気に心配する。
思いながらも友人ではないと率直に思ったのだった。

「明日授業出れそう?」
「無理、かも」

心臓だけが空中に浮き、見えない谷底に落ちて行ったようである。嫌な思いをしながら噛み締めてしまった。あー、嫌だ嫌だ、そう言葉に閉じ込め顔に出しては暗さに感謝するばかり。

「三郎、駄目だよ。ちゃんと授業出て、僕が一人になっちゃう。ハチもいるけれど、ハチは皆と仲良くて、気付けばどっか行っちゃってるし…でも三郎はずっと僕の側に居てくれるから、飾り物みたいに。ね、お願いだから明日休まないで」

身体を揺すった。雷蔵は明日のことを思えば必死であったが、鉢屋は痛みに必死で仕方がない。
それよりも、心配してくれているのか都合良く言われているのか分からなくなってしまっている。

「ねえ、一人は嫌だよ。三郎だって一人は嫌でしょ?僕がいないと嫌でしょ、だからさァ…」

全く心がこもっていない、空の言葉を浴びせられ肋骨にヒビが入ったように、鉢屋も空になるしかない。

「俺は、一人なんて、たとえ雷蔵が授業を休もうと一人でも構わない。雷蔵みたいに依存なんかしていない」
「嘘つき!」

がしり胸ぐらを掴まれたものだから、痛みは増すばかりであった。
暗闇に浸ってそれは激しくなるばかりで、情けないと感じつつどうしようもなくなる。せめて夕刻であれば雷蔵の顔を見れたであろうに、今は悲しんでるのかさえ笑っているのかさえ、不明点は落ちも進みもしないのだ。


「依存しているのはどっち!僕の顔をしているくせに!」
「ああもう、都合良く言わないでくれ」
「嫌!都合良いのもどっち!依存しているのは三郎じゃないか!」


ひんやりした空気が部屋にお邪魔する。ひんやりひんやり、蝕んで心もひんやり侵食していく、どっぷりとブクブク。

「ねえ、依存してるのは君じゃないの?」
「肺が痛いです」
「ねえ、話、聞いてたかなあ」
「肺が痛い三郎」
「そうなの?」
「うん」
「そうなんだ」
「三郎は?」
「心臓が痛い」
「そう」

依存して放置、すると放置して依存。食われ食われの始まりが始まったということであります。
追われ追われ終わる際はお互いに始まるのかも知れませんが、それは愛想というもので造られておりますから。

「肺が痛い」
「心臓が、痛い」
「まさか」
「取り間違えたのでは」
「あるまいな?」
「あるまいし?」


end











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