夜になってしまうと何でかは分からないが、それは自身にではなくて精神に聞かないと分からないが、どうも自虐的だし沈むし善悪の見分けなどつかないし、首さえ切れ斬れ!死にたいなあ!とか思うのだけれど、

そんなこと出来るわけもないから手首を切ったりする。それで消えない傷つくって生々しい赤つくって偉そうに大人ぶってみたりする。
反対に
それを馬鹿だとほざいて何の意味があるのだとほざいて嫌いだ弱いぞという奴もいる。

何だ、お前。お前は僕の気持ちになってそんなこと言っているの、取り消せ!言うな!死ね!お前がお前じゃなくて、お前が僕だったらな!お前もな!この気持ちが分かるんだ!
まあ、他人の気持ちなんて知らないが、まあ知りたくもないのだが。

ああいえばこういう、こういえばそんなことを言う!テメェは死にたいんだろ!死にたかったら手首なんか切ってんじゃねえ!さっさと自殺願望完遂してこい!

違う死にたいわけじゃない!癖なの!こういうのいいじゃない、こんな暗いのも似合う人だって、過去が気になるでしょう?どうかしてるってかっこいいでしょう?

本当は死ぬ勇気が、勇気がない若者であるから。


そんな夜でした。実感は分かりません、僕は今生きているのですから、そりゃあ人を殺したことはありますが、僕は生きています。
殺されかけたこともありません。死ぬ間際の寒さも知りません。

だから留さんと留さんの精神と、僕と僕の精神と話し合ったのです。


「留さん、おはよう」
「おはよう」

留三郎は背を向け、片付いた文机で勉学をするかのように、何かに一生懸命であった。試験はこの間に全て終わり更にある筈も無く、多少気になってゆっくり布団を出た。
脚に絡み付いてきた掛け布団を蹴りながら留三郎の元へとゆっくり近付くと、留三郎は文机からゆっくり視線を外す。

「床を這ってくるなよ、どこぞの鍛練馬鹿を思い出すだろう」
「そういう時は留さんの好きな人を思い浮かべてよ」
「伊作をか?」
「照れちゃうよ、留さん。大好き」

ゆっくりゆっくりゆっくり頭を撫でる留三郎に抱きつくと、夢々愉快だった。
馬手(めて)に転じて、左の方、弓手(ゆんで)は努々しくおろそか。赤くなって術無き余儀。

留三郎が文机に向かい何をしているかなど、忘却する程に怱せを表す。
静かに舞ったような和紙の匂いには、伊作もどうしたの、と文机を見るまでに至るのであった。


「な、に、これ…」
「折り鶴。」
「なんで、留さん折り鶴なんか作ってるの…?」

見渡せば自分の布団の上まで床一面に文机いっぱいに膝上に手中いっぱいに折り鶴、万感交々(ばんかんこもごも)胸にいたる。

「俺が死んだら棺桶を折り鶴いっぱいにして欲しくて」
「なんのこと…?」
「だから、昨晩お前とお前の精神と俺と俺の精神と話し合った結果だよ」

折り鶴って折り鶴って折り鶴って何だよ留さん冗談はやめてよ本当、そんな冗談はいらないよ。

「死を間近に感じないと分からないから、ふざけたこともできるふざけたことも言える。生きているからさ、なあ伊作。だから死んでみればいいんだ、死ぬと分かれば手首切ったりもしない、死にたいとも思わない、手首切ったり自殺願望がある奴を謙遜したりウザッてぇと思ったり、冷たい目で見ない、どうでもよくなるんだ。俺はもうじき死ぬ、死んでみようと思う。毒を飲んだよ。お前が自殺願望を持つ意味が分からなかった俺のように、今、お前は俺の気持ちなどは分からない。それが答えだったんだ。」

死にたいって言う人は生きたくても生きれない人の気持ちなんか分からないって言うけれど、分からないのは当たり前だろう?死にたくても死ねない人の気持ち分かる?知らない、僕は貴様じゃないもの。

聞くのは無意味だし言うのも無意味だし、それで誰かの心を動かしたとすれば素晴らしいお人だね!偽善のね!
お前は僕じゃない僕はお前じゃない、のに!押し付けて勝手にしないから!しないからこんな、ドロドロになるわけなんだもう喋るな殺したいから死にたいから、だからこう思ってるのは僕が生きてるから、だから結局放っておきたい、死にたい精神と生きてる肉体。

話し合ったつもりだったのにどうしてですか。


「ああ畜生、生きてぇ」
そう言った留さんはヨダレを垂らして折りかけの折り鶴を握ったまま、そのままになってしまった。

文机の藍色山吹色青鈍赤茜色赤紫浅葱色柳色菖蒲色萌木藤色の折り鶴の中に、丁寧に包まれたもう一つの留さんが死んだ原因のものを見つけた。


「留さんが飲んだように、僕も飲めば分かるよね、留さんの気持ち分かるよね解るよね判るよね。」

人間ってどう足掻いても死ぬんじゃん?
だったら自殺願望取り払って死ぬまで待てばいいのに、待てないの?死ぬよ、すぐ葬儀になるよ。

でも死に方は選べないから自殺願望は持つべきだと思います。自殺した方がマシだと思います。偉いんです。
自殺した人は神様になれるのです、ああ自分を殺してよかったあ。

幸せでした。


end











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