圧覚は知らない、触覚は分からない、温覚も理解できない、冷覚が記憶できない、痛覚は知る理由も無く亡くなったと思います。

「そんな手付きで、僕の膝にしだれるようにして、全く、甘えたような口の利方をするんだね」

前髪に触れた。留は御機嫌そうに鼻歌を唄っています、それは儚さを唄っているのだと答えておられる!
ホトトギスやウグイスなどが明け方、東の空にたなびく雲と共に、蟲と共に、本格的にひそめた鳴き方、瀟酒であるなあ。


「おまえに捧げた身体八腑じゃない。つらい苦しい大儀だ、難儀だ、しんどい」
「なに言っちゃってるの、棚上げしないでよ」

真偽の疑わしいこと、この上なかった。
一時しのぎ。その場逃れ。そうやって言いまぎらわしたり、だましたり。見当違いで、まるでワケが分からない。
新しいものに対応できないのならば、古いものとして自己保存と種族保存の基本的生命活動をすればいい。
(初めて怒ったのだろうか、僕は)

「留が悪い。最低」

右手に少しだけ力を込める。鋼色に綺麗な凶器は、見事に頭蓋を貫くのですが、同時に留の左足がビクビクと痙攣を始めます。
「もう鼻歌なんて唄えないよ、空間的想像も与えてあげない。留が悪いんだから」

再び、左手に力を込めると相も変わらず今度は留の右足が舞踏する。
「留が悪いんだから、僕の側にずっと居なきゃ駄目。ずっと見て居なきゃ駄目、じゃないと殺すからねって言ったのに貴方は笑っただけでしたよね、まあ殺してはいないけれど」


天井と床との立体認知が出来なくなったので、彼は非常に怯えているのですが、怯えるには声が出ないのです。そして情動行動は死んだので本体が死に至るまで絶えることはなく、ああ可哀想である。

「39、40野を障害してあげるとね、体性感覚のすべての感覚情報が入らなくなるから、もう何も怖くないよ」

明け方に向かって次第におやすみなさい。
覚醒したいの?したくないの?ああ喋れなくなっちゃったんだものね、精神活動も不可能だったね。きっと僕のことなど、覚えていないのだろうなあ。
よかった、昨晩こっそり留に口付けていて


微弱に虚しくなり、右手に掴んだ鋭利な凶器を、簡単に振り下ろしてしまったのだった。

深い溝が出来た、それは強膜を貫き眼球から出てくるのである。

end











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