「今、何と言った…?」


脳が間違いを記したと、恐る恐る顔を見れば、いつもと変わらない顔で笑っていたので、何かの間違いであろうと思った。
(何かの間違いでなければ、選択肢は見つからない。)

まだ冷たい風が切り裂くように木々を揺らし、ザワ、ザワ、秘密の噂をひっそりと怪しみながら行っている。

「そんなに、驚いた顔をしないでよ」

雷蔵は笑った。
口元はそうでも、眼はそれに合っておらず、中の黒眼(クロマナコ)は何だかぐるぐるぐるぐる碧に変わって行くだけ、砂のように。
混ざらない色は消え混ざる色に為り俺さえも溶かし喰らってしまいそうである。

雷蔵は両手のひらを合わせ、嬉しそうな顔で天井に目をやり視線を下ろした。

「僕ね、へえすけの洞察力の凄さは三郎と互角だと思うの。へえすけは狙ったら殆んど外さないし、冷静さがあるでしょう?」

胡座のまま佇む俺の側へと寄り添い、胸に顔を埋めて、するんと背中に手を回す。ふんわりした栗色の髪から雷蔵の匂いが漂う。この匂いが、大好きだ、抱き締めたい。そしてそのまま、

「僕と寝たいんでしょう?僕の中に入れて繋がりたいんでしょう?そのまま朝まで過ごすのも僕は嫌じゃないよ、へえすけのこと好きだから」

読んでいるかのように、雷蔵は淡々と言う。
好きだと言ってくれるのはどうしようもなく囚われてしまいたいぐらい、だけれども、それと引き換えにして喪えと言うのだろうか、どうか君の一言は嘘の嘘泣きでありますように。



「あいつ、嫌いなの。僕の変装ばっかりして、僕が迷惑してるってこと分かってるくせに。あいつが居ると、僕は誰なんだろうっていつも思う。僕ってそんなにいらない存在だったのかな、なんて」

碧(みどり)が碧(青)へと巡る廻り。
「ね、もう一度言うよ?」
(それは、)
「三郎を一緒に殺しちゃおうか」
(脳の間違いなんかではなく、)


「三郎を殺しちゃえば、僕はへえすけのモノになるよ」


そういう君が、どうしようもなく好きで好きで好きで、自分のモノだけにしたいと自身の腕は、君を逃すまいと固くきつく抱き締めていた。

end











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