「お帰りなさい」

玄関のフロアに飾られて在る西洋の大きな時計は午後八時前を指していた。買い物袋を下げたまま靴を脱ぐ俺を、雷蔵はクスクスと可愛く笑う。

「ハチ、今パスタゆがいてるよ」
「ゆっくりしてていいのに、俺が作るから」

笑って雷蔵の車椅子を押しながらリビングに入り、雷蔵をゆっくり抱いてアイボリー色のソファーへと座らせた。そこで今日三度目の深いキスを味わいながらも貪っていく。
雷蔵の胸をなぞりながら唇をつけたまま、息を交換するように、それから離れたくはないという気持ちを過密に絡める。

「今日はね、クリームソースもいいなと思ったんだけど、トマトソースとバジルを合わせてモッツァレラチーズを混ぜたパスタにしようかと思って、どうかな?」

優しく聞くと、雷蔵はいつも笑顔で「おいしそう」と言って、俺の作るものならば何でも素敵だと褒めてくれる。その褒めにいつまでたっても慣れない俺は、照れ隠しに雷蔵の首筋を舐めあげるしかなかった。


すると、キッチンからはシュワシュワと鍋から熱湯が溢れる音がし、原因を止めに立ち上がれといわんばかりに急かす。邪魔をしているのだと思ってしまう他、何もない。
「強火すぎたのかな、大丈夫だった?」という君の声を聞きながらカチンと火を止めて、さっそく大丈夫だったよと言わなければならないのに、自身は発火したままで我慢する事も忘れてしまっている。


そしてリビングの電気を消し、キッチンのみの柔らかい明かりが顔を薄暗く照らすと、雷蔵を既に膝元へと誘っていた。
「ハチ…?」
首を傾げている君は不思議そうに俺の腕を掴み、何も分からない顔をする。
だから一度ソファーに寝かせて白いワンピースを脱がし、淡い桃色のショーツも脱がせてから膝上に乗せても、
「まだ何も分からない顔するの?」
「しないよ。」
最後にブラジャーを外すと、すぐその先を口に含んで舌で弄んだ。仰け反る雷蔵の背中を左腕で抱きながら、右指を回すように進めて行く。

「雷蔵、今指が三本入ってるけれど感覚分かる?」
「わ、分かんない…」
「音は聞こえるよな」
「…いじわる」

キスをしながら右指を動かせば、ビチャビチャ音は鳴り響きそれを恥ずかしく思っているのか、雷蔵はギュッと目を瞑って頬を染めるだけ。唇を離しても目を開ける事はなく、咄嗟に下を向いてしまった。
「ハチも、脱いでよ」
「ん?」
ベルトに手をかけ、それから腰を浮かしてズボンとボクサーパンツを一緒に脱ぐと、雷蔵は丁寧に上を脱がせてくれている。

愛しいと思ったので、思わず抱き寄せた。
「いれるよ」
無言で頷いた雷蔵の腰を持ち上げ、濡れた亀頭をズルズルと中へ挿入する。

「雷蔵、今入って行ってる」
「…うん」
「っ、あー…全部、入った」
「ん、」

それから尻を撫で上げても、雷蔵は反応一つしなかったが、突き上げると少し眉が動く事が分かった。血色のよい脚で歩ける日が来る希望もない望みは、破片無く許されるのかも知れない。下半身の麻痺とおさらばできた時には、俺は雷蔵の感覚を最大限に活かして、またこんな風にセックスをするのだと思う。


ギシッギシッ、雷蔵を下から突いてはソファーを揺らして表情を見る。
「大丈夫、だよ」
確認を取り、再び突き上げるとソファーは相変わらず揺れて音は鳴ったが、雷蔵の中を入ったり出たりする摩擦の音には敵わなかった。

ふ、と耳元で息を吐かれてはゾクゾク背筋が弛んで此方が滅入る。
途端、夏の蒸し暑い日にあのボロアパートで喘ぐ雷蔵の口を抑えながら、夢中になっていた頃を思い出してしまったのだ。

「あ、あ、出る!出る、出るよ」
「ひぅっう」

ビクンと雷蔵が縮こまり、ハアハアと先程以上に色のある息を出す。甘えたような潤んだ瞳で俺を見つめるなり、濡れた唇は吸ってくれと言わんばかり。

「…イッたように見えた?」
「見えた」
「だって、イッたんだもん。気持ちよかったから」

嘘すら可愛かった。
そんなことを言わなきゃ、俺を満足にさせられないとでも君は思っているのだろうか。そんな所が妙に子供っぽくて、頭を撫でながら俺は微笑んでしまっていた。
「あ、夕食は今から作るから。ごめん、お腹空いたよな?」
既に午後九時を過ぎている時計を目に入れては、装飾の美しさに見とれ、無意識に目を細めてしまう。


「ねえ、嘘じゃないよ、本当に…さっき」
「うん」
「嘘じゃないからね」
「分かってる」

雷蔵の背中をなぞって腰を動かすと、一回目の時より卑猥な音がグチャグチャと耳を犯した。
外は大雨になっている。

「嘘じゃないよ?」
「ああ、」

雷蔵は泣いていた。


end











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