「ごめんね、痕つけちゃって、ごめんね」

昔から、おなごが髪を束ねている最中に、後ろから抱き付くことが大好きであった。うなじに鼻をつけフンワリ匂う白粉の香りを楽しめれば、それでいい。そして美味しくいただければそれだけで満足であったのに。


「おっかしいなあ、不破は男だろう?」


腹に手を回すと擽ったそうに身を捩る。瞬間、ぱらりと元結いが床に落ち、香しい匂いが鼻腔と自身を疼かせた。
(オシロイ、の匂いがしそう。)
塗ってあげればよかった、不破もその気になればきっと、もっと情が移っただろうに、女のように腰を振ったかもしれないのに、唯、赤い痕だけが目立つだけで、それ以上は何も無い。(私が異常にそそられ、誘われる、だけ。)

「僕、女じゃないです」
「知ってるよ」
「じゃあどうして、」

どうして等と、何を言ってるンだい、お前。この汗が滲んだ着物だって汗の乾いた肌だって、髪、だって全部全部結果だというのに、何を。
(なにを馬鹿なこと、)

「不破が誘ったクセに、ね」
「痛!」

首に歯形をクッキリ残した箇所が、こんなにも冷たいとは思わなかったが、こんなにも赤々しく染まるとは思っていなかった。青くなればよろしいだろうに、全く、そして、そこをなぞる。
指のひとつひとつ、創傷のひとつみっつ、ヌルヌルと滑らせて振り向くことは禁忌のようであった。
(纏っているのに裸体に感じることは鋭意だあねえ)

「指、口に入れさせて」
(生ぬるくも粘液みたいなものが好き、)
「別に下でもいいよ、雷蔵」

無理矢理に股を開かせると、今まで抵抗していた強張りがスゥと消えている。昨晩したときみたいに、では、またしていいのだろうかと、美味しすぎるのだろうなあと。
本当に、


「どうして七松先輩の言う通りに、この部屋に来ちゃうんだろう。」
「 さあ?」

抱いた手を頬擦りして舐めながら、対向に映る割れた鏡に悦ぶ顔と目の合う水晶玉、似過ぎたコクショク。

「好き、」


(恥ずかしいよ、不破)

end











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