「おはようすら、言ってくれなくなったときのことシッカリ覚えている。あれだけ身体を重ねても結局は、単純化された、濁流みたいに、戸惑わずに、溜め息をついた幾度も今も、今からも。組、離れたからか別れたからか、ねえ雷蔵?あれから678日目だけれど、こうやってぐっちゅりとヤることヤるには678回目って、少ないよねえ数えるには指を折っても足りないと思う三千人虐殺したって未だ未だ未だ未だ。」


戸を閉めて笑いかけると、朗らかに笑い返してくれるだろうと思っていたのだが、笑ってはくれなかった。(いつもそうだ、俺はいつも幻覚存在試行錯誤、を、執行しないといけない。)
そうだ、そういえば、今日は679日目になったのですが、嗚呼、忘れかけていたことを思い出しました、今日俺は旧友を殺してしまいました。あいつは雷蔵の居場所を聞いてきたのです、久しぶりにあったというのに挨拶もなく失礼ですよねえ、教えたってどうにもならない、離す気もない殺す気も更々、なのに、 嗚呼
(何故にアイツは俺の雷蔵、のコトになるとあんな必死になったのだろう。もう情景は覚えていないがね、今頃カラスの胃袋内さ)


満足感が ある。
手甲をしたまま、がしゃんと血生臭い刀を足元に落とし直ぐ様、湿った布団の上で怯えている雷蔵の元へ近寄った。薄い掛け物を剥ぎ取れば裸足が見えて、それがアイツと情事をしていた君なんだと思い返せば何とも言えぬ感情が頭を貫く。(別に醜い醜い嫉妬をしているわけではない、あれだけ依存していた互いが急に遠くなっただけに苛々していたのだ。ずっと、残像を記憶するまで永遠的に苛々するのだろうに、なんて生きた脳みそはややこしいのか!)
 頬に触れた。
 震えている。


「さ、ぶろ、今日はもう、なにもしないで、お願い何も、何も」
泣きべそをかくような顔で、雷蔵は左手のひらをこちらに向け肩を押し退けようとしている。
「つまらない抵抗、」
鼻で笑い、その手を引いて、下に、埋めて、指を突っ込んでみたくなった、否、したくて堪らなくなった。いつもしているのに、今の昂るモノは何処から溢れ出てくるのだろうかって、ギッチリ首を掴みながら雷蔵に覆い被さり甘い匂いを自身の鼻に突かせてみる。
(媚薬の過剰摂取、毒に等しくなった挙げ句の甘さに、眼の瞳孔が開きかけ死人のような眼を最近、雷蔵は持っていた。)




「雷蔵が疎ましくてしょうがない、殺したい」

髪を掴んで顔を上げさせたが、ごめんなさいとは言わない。ヤメテと言った。もう何かが壊れ出して墜ちて、もう二度と戻らない、かも知れない。
(だというのに、)

「ヤメテ、なんて、お前を逃がしたくないために、何処にも行かせないように、ああそれすら、あれは思い出だったねえ?」
「う、う、あ」
「何で俺から離れてアイツと仲良くなったの、まだ許していないよ許さないけれど」
「しらないしらない僕、なにもしらない!」

(罅が入る、崩れる)ごめんね、三郎。それだけでいいのに、抵抗するばかり、食べる前の兎だなあオマエ。
先が分かるクセ、床に脚を伸ばして抵抗とは言えない抵抗をして、みっともない、みっともないよ、何もできないって分かっているクセに。
「ねえ?」
雷蔵の眼に唾液を垂らすと、眉をひそめながら少し短い悲鳴をあげて横を向いた。たらん、唾液は汗と精液の匂いしかしない湿った布団にシミをつくる。
 (微笑まし、)


「いとしいひと、さぶろう、さぶろうだから、愛してる、愛してる、からあ」
「嘘、ばかり。ねえ、今日きみの愛しい人、連れてきたんだ、わかる?わかるよね、あいつだよ。お前を連れて此処から逃げ出させてやるってよ、ほうら。」
懐から、ちょうど手首で切られた左手を出すと雷蔵は狂ったように泣いてしまった。

「久しぶりだろう?ゆっくり話しなよ、手に触れて。名前を呼んであげるといい。」
「いや、いやいやいらないいらないい助けてえ」

床にガリガリと爪をたて布団からズルリ必死に抜け出そうとしている。せっかく、雷蔵の愛しい人の一部、持って帰ってきてあげたのに、布団に転がっているだけの紫色した指五本。ンン、らいぞうと、性交した、布団に、布団の上に、のるなのるな見るな!小刀でその手を退かすと遠くの冷たい床に転がり、どろり、遅い血が流れる。これでいい。後で土に埋めておこう、なんて馬鹿なことをしたのだと俺と雷蔵のモノが染み付いたモノに何でお前をごとん置いてしまったのだろうかと自身を責めながら、串刺しにして、埋めよう二度と見えない土の中に。


「らいぞうらいぞうらいぞう、ほんとうに好きだよ、」
「あああ離してええ!」

雷蔵は串刺しになんかしない。足首を掴んで引きずって引きずって、布団に戻して、ドスンと踵を背中に下ろして逃がさないように、
「逃げないように、」


ざくざく、ざくん


「ぎあああ゙あ゙あ痛ああ痛あい嫌あああ゙あッあ、アッあああ゙あ゙あ゙ッあああああああああッッ」
(逃げないよーに、君の足の腱を切ってしまえば、)


「は、ッは、ううぁ、あ、あああ…」
「ん、喘ぐよりそんなに血ィどくどくが気持ちいい?色っぽいよ、雷蔵」
「死にた、死ぬ、し、ひ、あ、あ、死にたい、殺して殺し、」
「愛してる雷蔵を殺せはしないさ、まぐあってあげることなら出来るけど。」

痙攣する下肢を持ち上げると、あらぬ方向へ向いている足指が此方を視ていた。
ぱっくり開いた傷口はもう見えずに血が埋める。
「わ、あ…、流れてる流れてる!綺麗だなあ」
足首から下へつたる深紅が自身の陰部に付着した。びちゃびちゃと飛び散る赤は決して綺麗だとは言えなかったが、白と混ざって出てくれば綺麗なのだろうと、せめてもの希望を寄せたが暗い部屋であるのに胸を高鳴らせることもない。(交じれば恍惚、混じれど同じ)


「ね、泣いているけれど、気持ちよくて泣いてる?痛くて泣いてる?」
「ッッあ゙あ゙ああ゙ああ、いやあああああ」


680日目、君は狂ってしまいました。
(逃げないのならば、それでいいのだけれど)

end


六年生で組が離れちゃって雷蔵は鉢屋以上に好きな人が出来てしまった結果のお話。卒業したと同時に雷蔵を監禁し毎日強姦する鉢屋。鉢屋が殺してしまったのは雷蔵の好きな人、竹谷か久々知どっちか。どっちでもいい

方向性失った愛情。











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