「元気ないね、」



( まさか)
唇を噛み締めながら原因となるアイツを消去してしまいたかったが、君から手背を撫でられたものだから。
ずっと撫でていてくれれば、いいのに。互いに擂れて骨が本当に白なのだと知ることができればどんなに。


「優しい」
「なにが?」
「雷蔵が。」
「…優しくなんかないよ、」
(単純に折れる百合の茎、みたいに、優しいよ)

折ったことはないが、そういう季節がきたならば咲いていたならば、殺して踏んづけてみようじゃないかと真に思う。
踏んづけ足を上げても綺麗のまま、それは少し苛々するのだろうね、

奥歯を噛み締めて
なにも感じない痛い哀しい泣きそう死にました。
「駄目なんだよ」
手背の上にある君の手、ぎゅうと握る。(あったかい絹のようだ)

「どうしたの、何が駄目なの、」
「ああ、別に何でもないのだけど」
「おかしな兵助」
「褒め言葉?」
「うん」

クスリ、君と笑えた。
笑った君の腕を触り首を触り顎を触り額を触り。
(頬に触れたなら、)

久しぶりに雷蔵の腰に手を回したような気がする。回して回して廻し過ぎて舌が離れても胸は合わさっていたけれど。
なんて幸せな刻!これじゃあ心臓を抉り出す随分な時間を遊に弄んで想いのままじゃなかろうか、ねえ、なんて凄いこと我らはシてイるノだロう。

(同一すればいいのに)


「兵助、僕行かないといけないから…もう離してくれる?」
「何処!何処へ!」
「さぶろうの所。」
「またアイツかまたアイツなのか一体アイツのどこが好きなんだらいぞうは」

  ( 優しいところ )



喚いて薬指を千切った。
( 俺の方がおまえのこと想ってるアイツより。アイツよりアイツより、遥かにおまえを愛していて果てしなく死ねるのだ。そうだ、いつもそうだ、鉢屋三郎は人の大切なものを奪っていくんだ平然と!おまえ、おまえ死んでも許すものか消滅していなくなればどんなに素敵なことでせう!)

「嫌だ嫌だ嫌だ、行かないでらいぞう!」
瞳の奥が単純に灼熱。
「痛いんだ痛いんだよ心臓が、ねえ一生こうしてくれれば苦しい想いをしながら死ななくてすむんだ、」
「…兵助」
「お願いだから何処にも行かないでずっと俺の腕の中に居てよ、後生だから」

墜ちて落ちて維持もできない重篤な全身反応に、枠組みさえも破壊され平衡も不明になってしまった。
境界部さえ裂け、泥水と地底の領域に混迷をきたす。

異常、な、貪食。



「初めて肉体関係を持ったのは、互いだったろう」
「覚えてる、覚えてるよちゃんと、こうやって」

(擽り、死滅に触れた)

「僕を離したのは兵助の方なんだから、」
(嘘だよ、君の嘘)
「三郎は僕を離してくれはしないんだもの。」
「―――では、」



(あのときのように、少し湿った空気の中で、仄かな藺草の匂いを楽しみつつ其れさえも恍惚すぎて分からなくなった雨季の忘れぬ生々しい思い出のように、)

引き姦してあげようか。



end











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