終わり、始まり


“俺が怖いか”
と問うた貴方に、
零れそうになる涙を必死に堪えながら
あたしは精一杯の「心」を込めて答えた。

“こわくないよ”―――と。


答えを聞いた貴方は、今までの激しい戦いが嘘だったかのように
酷く穏やかで優しい表情をしていた。
貴方があまりに満足そうに微笑むから
―――あたしは選択すべき瞬間を逃してしまったんだ。

目の前で灰となって消滅していく貴方の身体。
後には虚無感と後悔だけが残った。
何故、彼の消滅を拒絶しなかったのだろう、と。

その後悔は、続いている。
破面との戦いが終わり、虚圏に連れてこられる前の生活に戻った今も。
貴方がいない虚無感は消えることはない。
そして、大好きだった人が生きてる喜びよりも、
貴方を失った悲しみの方が何倍も大きいことに、気付いてしまった。


ふとしたときに、貴方のことを思い出す。
黒髪で痩身の――貴方に似た後ろ姿を見つける度、胸がざわめいて。
――貴方であればいいのに、と何度も願った。
でもそれはあり得ないのだと、頭の隅では理解していたことでもあった。




一人思考に沈んでいたあたしを呼び戻すように吹いた、強い一陣の風。
緩く止まっていたヘアピンが風にさらわれて地面に落ちる。
慌てて拾いに行こうとするあたしの目の前に現れた、人影。
あたしが手を伸ばすよりも先にそれを拾う、何処か見覚えのある手。

「相変わらず目が離せんな、おまえは」

――そして、聞き覚えのある声。
もう聞くことは叶わないと思っていた声だ。

何故?どうして?
そんな疑問が頭に浮かぶよりも早く、あたしは抱き着いていた。
触れた感触と、以前の彼にはなかったはずの温もり。
彼は確かに、此処にいる。幻でも夢でも何でもない。
ずっと堪えていた涙が溢れ出す。
悲しくて流した冷たい涙ではない、嬉しくて溢れた温かい涙。



「おかえりなさい」

顔を上げれば、懐かしい翡翠色の瞳が優しげに揺れていた。





.


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -