障子越しに朝陽が差し込んでくる。
その光の眩しさに、瞼をうっすらと開いた。
ぼんやりした視界に入ってきたのは見慣れた高い天井。
だんだん思考が鮮明になってきたところで、
漸く今朝の朝食当番が自分だということを思い出した。
慌てて起き上がる。
「…ん……」
そのとき、隣りから僅かな寝息が聞こえた。
寝息のする方へ視線を動かせば、
そこにいたのは――
(さ、斎藤さん?!)
居合の達人と名高い新選組三番隊組長その人だった。
普段の冷静沈着で寡黙な彼からは全く想像すらできない、
意外とあどけない寝顔をまじまじと見つめる。
特に起床の早い彼の寝顔は今まで一度たりとも見たことがない。
その珍しさゆえか、暫く見惚れてしまった。
(可愛い寝顔だなぁ…)
などと思わず口に出してしまいそうになるも、
そんな場合ではなかったと慌てて頭を横に振った。
何故彼が自分の部屋で、しかも同じ布団の中で寝ているのか。
しかも、不思議なことに昨夜の就寝前の記憶が全くない。
何が起こったのか、皆目見当もつかない。
必死に頭を捻る千鶴。
だが、何か分かるはずもなく。
顔面蒼白でオロオロしていたところで、漸く斎藤が目を覚ました。
「…千鶴?起きたのか」
「さ、斎藤さん!こここ、これは…」
千鶴の顔色が蒼白から赤面に変わる。
斎藤が起きたことで酷く動揺していて、言葉が上手く出てこない。その様子に驚いた斎藤に宥められ、
千鶴はやっと落ち着きを取り戻してきた。
とりあえず、この状況の謎を明かさなければ。
*
「何故同じ布団にいるのか…だと?」
きょとんとした顔で斎藤は千鶴を見つめる。
次いで、忘れたのか?とでも言いたげな表情を浮かべた。
「す、すみません…昨夜の記憶が途中から全くなくて…」
申し訳なさそうに、しゅんと頭を項垂れる。
反面、本当に何があったのだと色々なことを想像してしまう。
同じ布団に入って寝ていた、という状況からして
物凄く恥ずかしいことのような気がしてならないのだが。
顔を真っ赤にしながら、斎藤の顔をちらりと見つめる。
視線に気付いて目を合わせれば、千鶴は慌てて目を逸らした。
その様子に、斎藤は僅かに口元に笑みを作る。
「…そうか、それなら別に構わん」
「そ、そんな!教えてください斎藤さん…っ」
着物を正して早々に出て行こうとする斎藤の腕を掴む。
真実を聞かせてもらうまで離すつもりはなかったのだが、
彼の一言で思わず力が抜けてしまった。
「…今朝の朝餉の当番、あんたではなかったか」
「――!!!」
こうして千鶴は、真実を何も聞かされないまま、
鬼の副長の怒りを買う前に、と朝食作りに奔走したのだった。
*
そして、その後。
「ああ、昨夜?おまえ、酒呑まされてかなり酔ってたな」
「そうそう。で、一くんが部屋まで運んで行くことになってさー」
「あ、でも、すぐに千鶴ちゃんの寝息が聞こえてきたから、多分何もないと思うぜ?」
「まぁ相手があの斎藤だしな」
「って新八っつぁん!尾けてたのかよ、悪趣味だなー」
「俺は大事な妹分を心配に思ってだな!」
という三人の話を聞いて、とりあえずホッと息をつく。
だが、まだ一番重要なところを聞けていない。
こればかりは、多分本人にしか分からないし、聞けないことだ。
いざ意を決して、再び尋ねてみるが
「酷く酔った千鶴が、一緒に寝てほしいと強請ってきたゆえ」あの状況に至った
という真実のあまりの恥ずかしさに、
結局後悔することになってしまった千鶴であった。
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