目覚めれば隣に


障子越しに朝陽が差し込んでくる。
その光の眩しさに、瞼をうっすらと開いた。
ぼんやりした視界に入ってきたのは見慣れた高い天井。
だんだん思考が鮮明になってきたところで、
漸く今朝の朝食当番が自分だということを思い出した。

慌てて起き上がる。

「…ん……」

そのとき、隣りから僅かな寝息が聞こえた。
寝息のする方へ視線を動かせば、
そこにいたのは――


(さ、斎藤さん?!)

居合の達人と名高い新選組三番隊組長その人だった。
普段の冷静沈着で寡黙な彼からは全く想像すらできない、
意外とあどけない寝顔をまじまじと見つめる。
特に起床の早い彼の寝顔は今まで一度たりとも見たことがない。
その珍しさゆえか、暫く見惚れてしまった。

(可愛い寝顔だなぁ…)

などと思わず口に出してしまいそうになるも、
そんな場合ではなかったと慌てて頭を横に振った。
何故彼が自分の部屋で、しかも同じ布団の中で寝ているのか。
しかも、不思議なことに昨夜の就寝前の記憶が全くない。
何が起こったのか、皆目見当もつかない。
必死に頭を捻る千鶴。
だが、何か分かるはずもなく。

顔面蒼白でオロオロしていたところで、漸く斎藤が目を覚ました。

「…千鶴?起きたのか」
「さ、斎藤さん!こここ、これは…」

千鶴の顔色が蒼白から赤面に変わる。
斎藤が起きたことで酷く動揺していて、言葉が上手く出てこない。その様子に驚いた斎藤に宥められ、
千鶴はやっと落ち着きを取り戻してきた。

とりあえず、この状況の謎を明かさなければ。







「何故同じ布団にいるのか…だと?」

きょとんとした顔で斎藤は千鶴を見つめる。
次いで、忘れたのか?とでも言いたげな表情を浮かべた。

「す、すみません…昨夜の記憶が途中から全くなくて…」

申し訳なさそうに、しゅんと頭を項垂れる。
反面、本当に何があったのだと色々なことを想像してしまう。
同じ布団に入って寝ていた、という状況からして
物凄く恥ずかしいことのような気がしてならないのだが。

顔を真っ赤にしながら、斎藤の顔をちらりと見つめる。
視線に気付いて目を合わせれば、千鶴は慌てて目を逸らした。
その様子に、斎藤は僅かに口元に笑みを作る。

「…そうか、それなら別に構わん」
「そ、そんな!教えてください斎藤さん…っ」

着物を正して早々に出て行こうとする斎藤の腕を掴む。
真実を聞かせてもらうまで離すつもりはなかったのだが、
彼の一言で思わず力が抜けてしまった。


「…今朝の朝餉の当番、あんたではなかったか」

「――!!!」



こうして千鶴は、真実を何も聞かされないまま、
鬼の副長の怒りを買う前に、と朝食作りに奔走したのだった。






そして、その後。


「ああ、昨夜?おまえ、酒呑まされてかなり酔ってたな」
「そうそう。で、一くんが部屋まで運んで行くことになってさー」
「あ、でも、すぐに千鶴ちゃんの寝息が聞こえてきたから、多分何もないと思うぜ?」
「まぁ相手があの斎藤だしな」
「って新八っつぁん!尾けてたのかよ、悪趣味だなー」
「俺は大事な妹分を心配に思ってだな!」

という三人の話を聞いて、とりあえずホッと息をつく。
だが、まだ一番重要なところを聞けていない。
こればかりは、多分本人にしか分からないし、聞けないことだ。
いざ意を決して、再び尋ねてみるが

「酷く酔った千鶴が、一緒に寝てほしいと強請ってきたゆえ」あの状況に至った

という真実のあまりの恥ずかしさに、
結局後悔することになってしまった千鶴であった。





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