髪が伸びたら

(※蓮咲伝発売前に書いた物なので、少々内容に被りと違いがありますが、別物としてお読み下さい)


「髪…大分伸びましたね」

今日は久しぶりに警吏の仕事が休みだったので、
玄奘様…ごほん。
…玄奘と、二人で行き付けの甘味屋にきている。
注文したものを待っている中で
唐突に彼女がぽつりと呟いた言葉がこれだった。

「…そうですね」

玄奘の視線の先にある自分の毛先にそっと触れてみる。
確かに、結構伸びたようだ。
仕事のことを考えれば、伸ばさずに切るべきかもしれない。
以前のように結う方法もあるが。

「あまり伸びないうちに切ろうかと」
「え、切ってしまうのですか?」

自分の髪から視線を動かせば、
彼女は心なしか残念そうな顔をしていた。
俺が不思議そうに首を傾げると
玄奘は自分の言葉に慌てた様子で頬を染めた。

「す、すみません。綺麗な髪なので、少し勿体ないなと…」

玄奘の言葉に少し、いやかなり、驚いた。
男である自分の髪を綺麗だと言ってくれることに。
寧ろ彼女の髪の方が、よく手入れされていて綺麗に決まっている。

「俺は、貴女の髪の方が断然綺麗だと思いますよ」

一瞬戸惑って、それからまた頬を赤くして彼女は微笑んだ。
ありがとうございます、と。


正直、俺は彼女の言葉にはとても弱い。
あんな風に言われてしまっては、とても髪を切る気にはなれなかった。

「…しかし、貴女にそう言われては、伸ばすしかありませんね」
「え?そんな、私の言葉など気にしなくてよいのですよ。
仕事の邪魔になるかもしれないのでしょう?」

思った通りの答えだ。
彼女ならば、相手への気遣いを優先するだろうと分かっていたから。

「いいえ、そんなことありませんよ。
貴女にそう言って貰えて、俺は嬉しいんです」

以前に断髪したときは決意があったからのことで、
本来髪が長かろうと短かろうと、俺自身はあまり気にしていない。
だから、彼女が望むのであれば其方にしようと思う。

「髪は、伸ばします。
その際に一つ、貴女に頼みたいことが」



彼女に伸びた髪を弄ってもらうというのも、一つの楽しみかもしれない。





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