――パタン。
ふいに家の戸が閉まる音がした。
その音を聞いて、私はぱぁっと顔を輝かせる。
誰が入ってきたか、分かっているからだ。
自分以外にこの家へ帰ってくる人は一人しかいない。
つまり、彼が帰ってきたということ。
「ただいま帰りました」
思い描いていた人物は、まさに想像していたその通りに
柔らかな微笑みを浮かべて部屋に入ってきた。
いつもの光景に、少しホッとする。
「おかえりなさい、悟浄。
食事もお風呂も準備出来ていますよ」
どちらにしましょうか?と笑顔で尋ねると
悟浄は真顔で少し悩んだ後、急に頬を染めた。
何か変なことを言っただろうか?
…いや、そんなことはない…はず。
「悟浄?」
「あ、いえ、その…ま、まずは
貴女を抱き締めても、いいですか…?」
耳まで真っ赤にして何を言うのかと思えば。
夫婦となった仲なのだから、そんな確認を取らずともいいのに。
少し落ち着きのない悟浄が何だか可愛く思えて、
私は自分から彼に抱きついてみた。
「げ、玄奘様っ…」
「様は付けないでください」
私がそう素早く切り返すと、悟浄は赤い顔のまま苦笑い。
「…玄奘」
悟浄の優しい囁きが聞こえると同時に、頬に触れられた感触。
誘われるように、互いの顔の距離は自然と縮まる。
そのまま彼に身を任せ、私はそっと瞼を閉じた。
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