ありのままの自分で


ヘンリエッタは悩んでいた。
こればかりは、いくら悩んでも自分ではどうにもできない。
悩んだ末、同性で歳の近い二人に相談してみたりもした。

ラプンツェルに打ち明けてみれば
「貴方はまだ15歳じゃない。あと数年もすればきっと素敵な女性になると思うの!」
と瞳を輝かせて熱弁され。

いばら姫に持ち掛けてみれば
「そんなことを気にしているんですの?
意中の相手がいるのだったら、ありのままの貴方でアタックなさいな!」
と違う方向にアドバイスされ。

…結局、根本的な解決案にはならず。
どちらにも納得のいく話を聞くことはできなかった。

(二人の言いたいことは分かるわ。分かるんだけど…)

悩みは尽きない。
その悩みというのが――自分の身体のことなのだが。

五年の眠りから目覚めて、ずっと思っていたことだ。
年相応に見えないと言われる顔と身体。
長い間眠ったままだったのだから、成長が思わしくないのも仕方がないことかもしれないけれど。
最初はそれこそ、ラプンツェルやいばら姫の言う通り、あまり気にしていなかった。
でもいざ想う人が出来てしまえば、
その人が何気なく言った軽い冗談でも酷く気にしてしまっている自分がいた。
彼が自分を子供扱いする度に、彼に言いよる大人の女性が現れる度に、胸がちくりと痛んで。

(せめて年相応に見えれば…少しは意識してくれるのかな)

自室のテーブルに突っ伏してみれば、無意識に深い溜め息が零れた。

「なんだ、らしくもない溜め息ついて。悩みか?」

突然後ろから聞こえてきた声に、びくりと体が跳ねる。
今まさに悩んでいた元凶がそこに居たからだ。

「お兄さんが相談に乗ってやってもいいぜ?」

あ、勿論相談料は貰うけどな と、
飄々とそんなことを言う彼は、相変わらず金にがめつい。
大体、本人に相談できるわけがない。
私の想い人が金にがめついこの人物だということは、まだ誰にも言っていない。
(ラプンツェルあたりには気付かれてるかもしれないけれど)
ルートヴィッヒに知られたら、何でこんな奴を!とか何とか色々言われそうだ。
ちらり、と視線だけを彼に向ける。

「…私って、そんなに子供っぽいかな」

ぼそりと呟いた私の言葉を聞くと、彼は面白そうに笑った。
あ、やっぱり言わなければ良かったかも。

「まぁ確かにおまえガキっぽいけど」
(うん…そう言うと思ったわ)

自分で認めるのも悲しいが、自覚していたことだけに納得せざるを得ない。
反論できるほどの自信があれば良かったのに。

落胆する私だったけれど、彼――ハーメルンが次に言った言葉は
とても意外で、私を驚かせるには十分だった。
表情もいつものように飄々としていない、何処か真剣だ。

「そういうのをひっくるめて、おまえのいいところなんじゃねえの。
…少なくとも俺は、おまえのこと、」
「おーい、ヘンリエッター!」

私を呼ぶルートヴィッヒの声が、ハーメルンの言葉を遮った。
何だかすごく気になるところで遮られてしまった気がする。
一言返事を返して、再びハーメルンを見ると
いつの間にかまたいつもの表情に戻っていた。

「俺、あいつに信用されてねえからなぁ。
おら、さっさと行って来い」
「う、うん」

促されるまま、私はルートヴィッヒのところへ向かった。
あのとき、最後の方は小さくてよく聞き取れなかったけど、


“そういうのをひっくるめて、おまえのいいところなんじゃねえの”


さり気ない彼のその言葉は
今のままでいいと言ってくれているようで、私の心を温かくしてくれた。



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