【忘れないもの/寅撫】
(帰還して、未来の記憶をなくした後の話)




『…好きだったよ』


記憶の破片から浮かんだ声は、私がよく知った声と似たものだった。

そんな言葉、聞いたことがない。聞いたこと、あるはずがない。
「好きだった」なんて、過去形。

でも…どうしてだろう。

胸が締め付けられるようにきゅうっと痛む。
切なくて苦しくて、愛しい想いが溢れてくるのは、何故?






気が付けば、私は瞳いっぱいに涙を溜めていた。

――この涙の理由は分からないまま。

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