もうすぐ高校最初の期末テストという頃、目に見えてツッキーの機嫌が良くないな〜と思ったら部活仲間に勉強を教えているらしい。ツッキーと山口の部活仲間で勉強を教えるってことは1年生なんだろうけど、なるほどツッキーは他の1年生の2人、王様があだ名?の「影山」くんと背が小さい「日向」くんとはあまり仲がよろしくないらしいから機嫌が悪くなっているのも納得だ。
「ふふふ〜ん」
それとは引き換えに山口は最近ご機嫌である。
「どうしたの山口、なんかご機嫌じゃん」
「えっ!?そ、そうかなあ……」
「うん、なんか良いことあったの?ツッキーに消しゴム拾ってもらえた?」
「えっいや……まだ拾ってもらえたこと無いな……」
「ちょっと、僕をなんだと思ってるの」
「「ツッキー!」」
「……あっ、そう」
ツッキーは呆れたようにそう返して、ヘッドホンを着けてしまった。私たちといるときは滅多に音楽を聴き出すことはないのだけれど、滅多にないからこそこういうときは本当にほっといて欲しいときなんだろうな〜ってなんとなく感じている。山口も同じなのか、それともただ単にツッキーの邪魔をしたくないのかわからないけれど、とにかく私たちはヘッドホンを着けたツッキーに必要以上のちょっかいは出さないのだ。
「んで、なんでご機嫌なの?」
「え〜……実はバレー部に新しいマネージャーが入りそうなんだよね」
「えっ、そうなの!?女の子だよね!?1年生!?かわいい!?」
「えっ、う、うん……1年……か、わいいと思う……」
「え〜!良いなあ女子マネ……っていうか男バレって3年にも綺麗な女のマネいるって聞いたんだけど!なんなの?羨ましい……」
「え、ええ〜……あ、でもまだ入るって決まったわけじゃないんだけど……」
頬を染めて口ごもっているから何かと思えば、かわいい女子マネが入りそうだという報告に私も心なしかテンションが上がってしまう。そんな私の反応が予想と違ったようで山口は困ったようなホッとしたような顔で笑ってた。私だってかわいい女の子とお知り合いになりたい。もっと言えば山口がかわいいと言ってる子を見てみたいって気持ちもある。冷やかしとかじゃなくて単なる興味で。きっと可愛らしい子が好みなんだろうな。ツッキーの好みも気になるけれど、ツッキーはツンデレだし好きな人が出来ても彼女が出来ても教えてくれなそうだなあ。薄情者め。そう思いながら大きな背中を軽く睨む。
「私も男だったらな〜男バレ……いや無理だな。聞いてるだけでハード過ぎ。無理。」
「うーん、そう?」
「うん。ほんと山口もツッキーも尊敬するわ〜」
「……へへっ」
私の言葉に素直に照れる山口が男の子なのに可愛くてむかついたので、露わになっているおデコにデコピンをしたところでチャイムが鳴り、私は痛がっている山口を無視して席に座り直した。
○○○
期末テストも終わって、いつものように体育館へ向かうツッキーと山口と玄関まで一緒に歩いていたときだった。山口が知り合いを前方に見つけたらしく声をあげる。
「あ、谷地さんだ」
「谷地さん?」
「この前言ってた新しいマネージャー。正式に入部したんだよ〜」
「えっ!あの子?ちょ、ちょっと山口声掛けてよ」
「えっ!ていうかなんでなまえはそんなに食い付くの……」
「女子マネ羨ましい!気になる!」
「も〜……谷地さーん!」
「ひぃっ!?あ、山口くん……と月島くん……?」
谷地さんと呼ばれたその子は肩を大きく揺らしてから、肩につくかつかないかぐらいの髪を揺らして振り向いた。そんなに驚いたのか、目を見開いて、心なしか動きも硬い。
「部活行くんだったら一緒に行こ〜!」
「えっあっ、うん!?」
何この子、小動物みたい。挙動不審って言葉が似合う。見た目可愛らしいな〜って思ったけど、ここまでの反応を見てるだけでそれ以上に中身がとんでもなく可愛い。そんなことを考えながら見つめていると、いつの間にか目が合って……?
「わっ、わたしっ、やっぱり先にっ!」
「え、あのっ!」
「ひっ!?」
私が見ていたせいで居心地が悪かったのか、多分先に行くと言おうとしたのだろう。それを遮るように声をかけると悲鳴をあげられた。……えっ……。
「……えーっと?」
「ごっ、ごめんなさいいい!」
「……ぶふっ」
「……私ってそんな怖いかな山口」
「えっいや……そんなことはないと思うけど……」
初対面の同い年の女の子にここまで怖がられるなんて……しかも可愛い子。正直ツッキーと山口におどけてみせているけれど、ちょっと泣きそう。
「あー……怖がらせちゃってごめんね?私1年4組のみょうじなまえ。山口とツッキーの友達です。」
「えっ、あっ……1年5組の谷地仁花です……」
「うん。たまに山口から話聞くよ〜男バレのマネなんだよね?大変じゃない?」
「たっ、大変だけど……楽しい、です」
「……そっか。がんばってね」
こくこく、と激しく揺れる首にくすり、と笑みが溢れる。本当に、この子は良い子なんだなって。ちょっと話しただけなのにわかる。
「あ、部活遅れちゃうよ!行こ行こ!」
「わっ」
谷地さんの小さな背を押して第二体育館の方へと向かう。いつもは玄関で2人と別れるのだけれど、折角なので部室の方まで谷地さんの肩に両手を置いたまま歩いて行く。ツッキーは冷たい視線を送って来たけど知らないふり。
「じゃあ俺たち着替えてくるから」
「うん、また明日ねー!」
部室へ入って行く山口とツッキーに手を振って振り返ると、谷地さんがきょとんとした顔でこちらを見ていた。
「どうかした?」
「あ、えっと、ここまで来たから部活見て行くのかと思ってて……あっ、みょうじさんもどこか運動部とか?」
「あぁ、なるほど。部活は入ってないし、見学もしないよー」
「あっ、そうなんだ……?」
「谷地ちゃんとちょっとお話したくて付いて来ちゃった」
「うぇっ!?」
「ははっ! 谷地ちゃんほんとかわいい!ツッキーに虐められたらすぐに言ってね!流石のツッキーも女の子にそんなことしないと思うけど….…」
「えっ!は、はい!」
「あ、敬語じゃなくて良いよ〜私たち今日から友達ね?」
「えっ」
「えっ、嫌?」
そう問い掛けると、顔を赤くしてブンブンと首を横に振る姿が先程のデジャヴの様に感じた。
「でも、なんで……」
「えー?友達の友達とは友達!的な!」
「おぉ……」
「なんてね。本当はただ谷地ちゃんと仲良くなりたいなーって思ったからだよ」
そう言うと同時になんだか恥ずかしくなって、じゃあね!って声を掛けて顔も見ずに駆け出したけれど、返事がないことが気にかかって、少しだけ振り向いた。そこには遠くからでもわかる程真っ赤になった谷地ちゃんが立っていて、その光景は私の頬まで赤く染め上げた。とりあえず次会ったときには名前で呼んで貰おうかな、なんて。
かわいいあの子と
また明日
また明日
20140122