目が覚めたとき、とてつもなく嫌な気分だった。

とにかく機嫌が悪い、今日は最悪の日になりそうだ。

ふとその理由を考えてみると、すぐにそれは見つかった。

ここ何日か、なまえに会っていないからだ。


別に彼女も遊んでいるわけではないし、彼女が悪いわけではない。

だが任務とは言えど、こんなに会えないのは如何なものか。

予定では5日で帰ってくるはずだったのに、長引きそうですなどという簡素なメールが来たのが数日前。

そんな今日は何日だったか。


「……駄目だ、思い出せない。」


年をとると日にちの感覚がなくなって困る。

そんな自分に舌打ちした。


「…………」


それに今はなまえがいなければ人生に色がなく、過ごしたところで何の意味も持たない。

とりあえずこの苛々を何とかするため、気晴らしに外へ出掛けよう。

そう思いベッドから出て伸びをする。

すると、ベッドサイドに紙が置いてあるのに気づいた。

自分は置いた記憶がない、一体誰が置いたのだろう。


「ここにあるってことは、僕に読めって意味だよね?」


宛名は書かれていないがそう解釈し、兵部は折られていた紙を広げて中身を読んだ。



ーーーーー

少佐へ

お誕生日おめでとうございます。

任務が長引いてしまい、日付が変わってすぐにお祝いできなくてすみません。

今日の4時頃帰ってきたのですが、少佐も眠っていらっしゃいましたし、私も疲れが限界に達しているので少し眠らせてください。

本当は少佐が起きてすぐに言いたかったのですが…申し訳ありません。

昼前には起きますので、その時にまたお祝いさせてくださいね。

ではまた、お昼に。


なまえ


p.s.ただいま。

ーーーーー




読み終えた兵部はベッドに力なく腰かけた。

片手は手紙を持ったまま、もう一方の手は僅かに赤くなった顔を覆っている。

“ただいま”と書かれている箇所のすぐ横を、彼は親指でなぞった。

そこにつけられたキスマーク。

この口紅はなまえのものだ。


「…そうか、誕生日か……」


やっと出てきた言葉は酷く間抜けなものだった。

4月15日。

今日が何日なのかわからなかったのだから、誕生日だったことなど覚えているはずがない。

正直もう年はとりたくないのだが、こうして祝ってもらえるのは嬉しい。

兵部はまだ着替えていないことも忘れ、なまえの部屋へと瞬間移動した。


入った部屋では、やはりなまえが眠っていた。

ベッドの傍にはジャケットが乱雑に脱ぎ捨てられており、彼女の疲れが本当に限界だったことを物語っている。

それと同時にその疲れの中でも自分のことを思って手紙を書いてくれたことにさらに嬉しさが増す。

兵部はそのジャケットを拾い上げると、丁寧にハンガーにかけた。

そして改めて彼女のベッドに近づく。

あどけない寝顔。

だがやはり疲れのせいか少々顔色が悪い。

この部屋に来る前は、話したいから起こしてやろうかなんて思ってもいたが、それもどこかへ吹き飛んだ。
昼までと言わず、その疲れがとれて元気になるまでぐっすり眠るといい。

兵部はそっとなまえの頬を撫で、そしてキスを落とした。


「おかえり。」


優しく微笑み、布団をかけ直す。

しかし彼女を見ているとこのまま1日中眠り続けられるのも悲しいなと思ってしまう。

矛盾している自分の心に苦笑した。

起きないのも困るけど寝かせてやりたい。

だからなまえが自然に起きるまで僕はここで彼女の目覚めを待っていよう。

ベッドのすぐそばに椅子を出し、そこに腰かける。

本でも読もうか、もらった手紙をずっと読み返すのも悪くない。

彼女の寝顔をずっと見ているのも楽しいだろう。

起きたら一緒に何をしようか、それを考えているのも幸せかもしれない。


「……しょう、さ…」


なまえの寝言に少しドキリとして目を丸くする。

結局僕は、なまえの寝顔を見ながら彼女が起きてからのことを考えることに決めた。


訂正するよ。

今日は機嫌がいい、最高の日になりそうだ。



END.



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