少し、疑問に思うことがある。

澪は首を傾げた。


「どうかした?」

「あ、いや、その…」


カズラに声をかけられるも、彼女は歯切れの悪い返事をするだけ。

その様子にカズラもまた首を傾げる。

だが澪は気にせず、先程から気になっている2人を見つめていた。



「司郎、ここなんだけど…」

「あぁ、そこは…」


現在、任務で外に出ている真木、なまえ、澪、カズラ。

然程難しいものでもないが、まだ子供たちだけでは不安なため、大人の誰かが行動を共にする。

最近澪が就く任務の引率者に真木となまえがよくあたるのだが、問題はそこではなかった。


「あの2人って……」


本当に、付き合っているのだろうか。


彼女の疑問はこれだった。

付き合っていると知ったのは、マッスルがアジト内で触れ回ったからだ。

それまでは普通に話しはするも、全然相手を想っているようには見えなかった2人。

自分が見た限りでは、今もあまりそういう風には見えない。

なまえが真木のことを名前で呼び出したのは確かだが、彼はあまりそういうのには興味がなさそうに見えるし、何より――


「ありがとう。じゃあまたこっちが終わったら連絡するわ。」


必要最低限のことしか話さない。

付き合うというのは、もっと一緒にいたり仲良くすることではないのだろうか。

いちゃいちゃするのが全てではないが、彼らはあまりに冷めすぎている気がする。

真木は事をうまく運ぶために別行動をとるらしく、その場をあとにした。

残ったなまえが澪とカズラの方を向き、小さく笑む。


「行くわよ。」

「っ、はい…!」


彼女の瞬間移動で目的地へ向かう。

任務が始まってしまったため、結局真相は掴めないままだった。






ある日、また同じメンバーで任務があった。

ごく軽いもので、引率など要らないのではないかというほどのものだったが、やはりあの2人はほとんど口を利かない。

だが仕事として必要なことは話し、時々目が合うと互いに微笑んでいる。

喧嘩をしているわけではないようだ。


アジトに帰っても疑問が解決することはなく、澪はモヤモヤとしていた。

そんな澪を、理由のわからないカズラは心配そうに見る。


「どうしたの?」

「…………」


理由を聞いてみたが、やはり返事はない。


「どうかした?」

「…っ……!」


澪があまりに浮かない顔をしていたためになまえは声をかけたのだろう。


「大丈夫?気分悪いの?」

「え、あ、いや…」


どうしよう。

聞いてみたいが、失礼ではないだろうか。


「何か悩みごと?」


顔を覗き込むなまえ。

カズラも理由が知りたいらしく、彼女を見ている。

澪は、少し躊躇いがちに思っていることを口にした。


「あの…なまえさんって、真木さんと…付き合ってるんですか…?」


彼女から発せられた言葉になまえは驚き目を見開いた。

カズラも予想外だったようで驚いている。

だがなまえはすぐに声を上げて笑った。


「何?司郎が好きなの?」

「いえっ…そうじゃなくて…!」


澪は慌てて否定する。

じゃあどうして?と理由を促すなまえに、目を逸らして小さな声で話した。


「あんまり、真木さんとなまえさんって話さないから…」


その言葉を聞き、カズラは何となくわかる気がするという顔をした。

なまえは仕方ないというように眉を下げ、困ったように笑う。


「……どうした?」


その時、報告をしに行っていた真木が3人のもとへやって来た。

兵部が留守にしているため、相手がおらず報告できなかったようだ。


「あら、もう終わったの?」

「いや、少佐がいらっしゃらなくてな。」


真木の答えになまえは納得したように頷く。


「それより、先程お前の大きな声が聞こえてきたんだが…」

「え、そんなに遠くまで聞こえてた?」


そう言ってなまえはまた笑う。

機嫌がいいなと思いながら彼女を見る真木を、澪は見上げた。

今は仲がいいのに。


「澪、さっきのこと司郎にも聞いてあげて?」

「え…!?」


どうしようかと困惑した表情で真木を見ている澪。

そんな彼女の話を聞こうと、真木も澪を見た。

だが身長の差から見下ろすような形になり、威圧的に見えてしまう。

澪は何度か口をパクパクさせたが、結局何も言わなかった。

そんな澪になまえは苦笑する。


「澪がね、私と司郎は本当に付き合ってるのか、ですって。」

「な…!」


澪の代わりに先程の質問をなまえが言えば、真木は僅かに赤くなる。


「答えてあげてよ。司郎への質問でもあるんだから。」


驚いていた真木だが、しばらくすると少し冷静さを取り戻し、答えろなどという無理な要求に眉を寄せる。


「…そもそも、何故そのような質問を……」

「私たちがあまり喋らないかららしいわ。」


彼女が答えると、真木はますます眉間の皺を深くして顔を背ける。

そんな彼になまえは小さく息をつくと、澪とカズラに向き直り眉を下げた。


「別にいつも話さないわけじゃないのよ。ただ、仕事中は話さないだけ。」


彼女が話し始めると、2人は黙ってそれを聞く。

真木もその場を去ろうとはせず、話に耳を傾けた。


「任務の間は、例えそれが簡単なものだとしても周囲に気を配らないといけないでしょ?だから私情を挟まないように話すのを避けてるのよ。」


たまに目が合ったら笑ったりするけどね、と付け足しすと、澪は複雑そうな顔をした。


「でも、寂しくないですか…?」

「何日も続く任務の間中ならそうかもしれないけど、お互いが了解して決めたことだし、1日くらいならそんなに寂しくないわ。それに…」


一旦言葉を切って、なまえはニヤリと笑う。


「司郎は私のことを愛してくれてるから、そんなに心配しなくても大丈夫なのよ。」


そう言った途端、澪とカズラは顔を赤くした。

そして別の方向を見ている真木も、同じように顔を赤くする。


「おいなまえ、その辺にしておけ…」


2人からはほとんど見えないくらいに顔を背けた真木が、焦ったように言う。

そして足早にその場を去ってしまった。


「疑問は解決した?」


なまえがそう問いかけると、澪は黙って頷く。

その反応になまえは満足すると、澪の頭を撫でてじゃあねとその場をあとにした。

そして小走りで進み、真木に追い付く。

会話は聞き取れないが、追い付いたなまえに余計なことを言うなとでも言っているような真木。

そんな彼に笑いながら軽く謝っているようななまえ。

彼らがこんな風に話しているのを初めて見た。

なるほど、こうして見ればとても仲がいいし幸せそうだ。


「そういうもの、なのかな…」


そんな2人を見つめ、澪はぽつりと呟く。

いつかは自分も、あんな風に自信を持って愛されていると言えるのだろうか。

将来のことを考えながら、彼女は話しながら歩く2人が角を曲がって見えなくなるまでじっと見ていた。

その未来がどのようなものになるかはわからないが、彼らを見ていると羨ましいのと同時にいい未来になりそうだと思わせてくれる。
澪の表情は、ずっと抱いていた疑問が解けたこともあり、すっきりとしていた。



END.



.


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -