「サンタさんだ!」

「プレゼンちょうだい!」

「僕も!」

「私も!」


カタストロフィ号内にある広い子供部屋で、子供たちは大きな声をあげていた。


「そんなに焦らなくても、ちゃんとみんなにプレゼントをくれるさ。」


そんな彼らを、赤と白の服と帽子を身に付けた兵部は優しく宥めた。


「そうだろ、サンタさん?」


自分の後ろを歩いている人物に向かって言った兵部は、子供たちには見えないように意地悪い笑みを浮かべる。


兵部と同じ服装で大きな袋を担ぎ、髪を特殊な塗料で白くされたその人物――真木は、盛大に溜め息を吐いて仕方なく肯定した。

モコモコとした髭は、自身の髪を顎辺りで固めているもの。


「何とかならないのか…」

「仕方ないわ、頑張って。」


そんな彼を、同じく赤と白の服装をしたなまえは小さく励ました。

後ろでトナカイの着ぐるみを着たマッスルとコレミツも、諦めろといった顔をしている。



「じゃあみんな、サンタさんにプレゼントもらっておいで。」


兵部の合図と共に、子供たちは一斉に真木へと駆け寄った。


「サンタさん!」

「プレゼントは!?」


子供たちが一気に真木のまわりに群がる。

彼はなまえに助けてくれと言わんばかりの目を向けた。


「ごめん。どうすることもできないわ。」


声に出さず口だけ動かし、彼女は眉を吊り下げる。

わかってはいたものの、真木は顔に絶望の色を浮かべた。


「サンタさん!」

「なまえねえちゃん、サンタさんプレゼントくれないの?」


真木が何の反応を示さないため、痺れを切らした子供がなまえに声をかける。


「あー…、サンタさんも、みんながいきなり寄ってきて吃驚してるのよ。」


苦笑いを浮かべて彼女が答えると、子供たちは素直に納得したようだ。

なまえは真木に何かしろと訴えかける。

数秒後、彼は意を決してサンタになりきった。


「プレゼントはみんなの分あるから、取り合わないように!」


自棄になって真木が発した言葉に兵部は吹き出す。

だが子供たちはプレゼントへの期待で彼に気付いていない。

サンタクロースらしい振る舞いでプレゼントを配り出した真木を見て、ついに兵部は転げ回って笑い出した。


「…………」


そんな彼を見て、なまえはどうしたものかと溜め息をつく。

だがどうすることもできず時間は流れ、すべての子供にプレゼントが渡されるまで兵部は笑い続けた。

プレゼントを受けとった子供たちは手元にある箱を開けたくてうずうずしている。


「サンタさんは次のおうちに行かなきゃいけないからお見送りしてあげて。」


なまえがそう言うと、子供たちは皆ばらばらのタイミングで別れの言葉を発した。

真木はもう少しの辛抱だと、笑顔で彼らに手を振る。


「じゃあ、サンタさん送ってくるわね。」


なまえと真木、マッスル、コレミツが部屋から出ていく様子を、子供たちは大きく手を振りながら見送った。




部屋を出て扉を閉め、声の聞こえないところまで来ると全員が盛大に溜め息をついた。


「この服アタシの趣味に合わないから脱いでくるわ。3人とも、よいクリスマスを。」


そう言ってマッスルはその場をあとにする。

コレミツも着ているのが嫌らしく、なまえと真木に別れを告げて早々と立ち去った。



「俺もこの白を落としてくる。なまえは先に部屋に戻ってくれ。」

「ありがと。じゃあ先に行ってるわね。」


そして彼らも別れ、廊下は静まり返る。

それぞれが目的地へ向かうために歩く足音だけが響いた。




真木が部屋に戻ると、なまえはソファに座って寛いでいた。


「おつかれさま。」


彼の姿を見て苦笑しながらなまえは言う。


「あぁ。」


宣言通り白い塗料を洗い流した彼は、既にいつもと同じようなスーツを身に纏っていた。

シャワーは使ったが、髪はしっかりと乾かされている。

真木は歩き出し、なまえのいるソファの向かい側にあるソファに座った。


「大変だったわね。」

「まったくだ。少佐は何をお考えなのか…」


なまえが労りの言葉をかければ真木は軽く愚痴をこぼし出す。

彼女はその様子を見てまた苦笑を漏らした。


「子供たちのためとはいえ、あれはやりすぎだろう。」


あれとはおそらく髪のことを言っているのだろう。

確かに地毛を白に染めさせるのは少しやりすぎだ。

いくら水で落ちる塗料とはいえ、髪が傷んでしまうのは目に見えている。


「少佐もからかって楽しんでおられただけだし…」


腹を抱えて転げ回らずともいいだろうと言う真木。


「仕方ないわよ。あの人はパンドラにいる人間の誰よりも子供だもの。」


そんな彼になまえは深刻そうな表情で応える。

しかしすぐに目が合い、2人はクスッと笑った。


彼女の言葉のおかげでいくらか心中穏やかになった真木はまた話し出す。


「まぁ、あれはあれでよかったのかもしれないがな。」


予想外の言葉になまえは目を丸くした。


「え、実は気に入ってたの?」

「いや、気に入ってはいないが子供たちは喜んでいたからな。」


だがその一言で納得する。


「パーティーとしてはよかったものね。」

「あぁ。だが来年は誰か別の奴に葛を被せるか催眠能力を使ってもらいたい。」


もうあの格好は懲り懲りだと真木は続けた。


「それより…」


そして一旦言葉を切り、真剣な表情でなまえを見る。


「…お前はいつまでその格好でいるつもりだ?」


少し眉間に皺を寄せて問えば、彼女は不思議そうな顔をした。

真木とは違い、なまえは先のパーティーと同じ服装――つまり赤と白のサンタコスチュームを着たままである。

さすがに帽子はとっているが、他の者がこの2人を見れば怪しむであろうことは安易に予想できる。


「あら、結構気に入ってるんだけど。似合わない?」

「いや、似合ってはいるんだが…」

「何?」


真木の言葉を濁すような言い方に、彼女は訝しげな視線を送る。


「…俺たちが2人で過ごすのにはあまりいい格好だとは言えない。」


少し間をおいて彼が理由を話せば、なまえは意外だったというように片眉をあげた。


「あら、何かプランがあったの?」

「当たり前だ。俺を何だと思ってる。」

「司郎はパソコンと過ごすのかと思ってたわ。」


静かにおどけたような笑みを浮かべながら言えば、真木は小さく息をつく。


「馬鹿か。なまえと過ごすに決まっているだろう。」


その言葉に喜びを感じ、なまえは微笑む。

だが本当にこのあと1人で過ごす覚悟をしていたために、今まで黙っていた真木に少しだけ仕返ししたくなった。

そしてそのプランとやらを聞かせてもらうべく挑戦的な口調で返した。


「光栄だわ。でもどうするの?今から外に出ても人だらけでどこの施設もいっぱいよ。」


ここで静かに2人でワインっていうのもいいけどね、となまえが言えば、真木は口端を上げる。


「心配するな。ちゃんと店も予約してある。」


またまた予想外の言葉を返され、彼女は目の前の男に勝てないのかと眉を寄せた。


「でも外出するのなら、この格好の方が目立ってはぐれないかもしれないわよ?」


少しだけでも困らせてやりたい。

クリスマスなのだからそのくらい許してくれと心の中で請い、冗談を言ってみた。


「…やめてくれ。彼女にそんな格好をさせるような妙な趣味を持った奴に見える。」

「じゃあそんな趣味はないの?似合ってるなんて言ってたくせに。」

「あれは…!」


言葉に詰まった彼を見て、なまえは少し優位に立てた気がした。

そんな彼女を見て真木は小さく息をつく。


「…頼むから着替えてくれ。似合っているのは事実だ、このままではその妙な趣味を持ちかねない。」


視線を逸らして正直に言う彼に、なまえは少し頬を赤く染めて目を見張った。


「…理解したなら着替えてくれ。」


微かに頬の色を変えた真木がいとおしく、彼女は優しく微笑む。

さっきまでこの男を負かしてやりたいと思っていたのは何だったのか。

なまえは悪戯な笑みを浮かべ彼に声をかけた。


「じゃあしっかり着替えなきゃね。」


そう言いながら立ち上がり、着替えるべく自室へ行こうと出口の方向を向く。

真木もようやく冷静さを取り戻し、座ったまま彼女を見上げた。


「あまり子供っぽい服装はするなよ。これからは大人の時間だからな。」


微笑んでそう言った彼になまえも振り返って微笑み返す。


「わかってるわよ。」


だが何かを企んでいそうなその表情に、真木は小さく息をついた。

そして彼も立ち上がり、なまえへとゆっくり近付く。


「何か妙な考えが…」

「やだ、あるわけないでしょ。」

「だといいが……」


信じていないといった様子の真木に、なまえは軽く頬を膨らませた。

しかし彼が本気で言っていないことはわかっている。

だからこそこうして言い合うことができるのだ。


「…信じられないの?」

「いや、絶対的信頼をおいている。」


妙なことを言い出すのはどちらの方だか。

真木の返答に苦笑し、なまえは体ごと彼の方を向く。

彼にとって二十代最後のクリスマス。

30を越えたところでどうというわけではないが、一応節目ではある。


「ねぇ司郎。」

「何だ。」

「Merry Christmas.」


そう言えば彼は少し目を見開き驚いた様子を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「Merry Christmas.」


どちらからともなく合わせた唇は、彼の言う大人の時間に相応しいだろうか。


年齢差は一生縮まらないが、年を重ねればその割合は小さく感じられる。

ああ言われたということは、自分も少しくらい近づけたのだろう。

そう思うと嬉しくなり、首に腕を絡めてさらに深く唇を求め合った。



END.



.


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -