「っ、嘘……」


満開の桜。

目隠しを外された瞬間、視界に飛び込んできたのはそれだった。


「何で…」

「いつかの任務の帰りに見つけてな。ここは気温の変化が特殊らしく、桜が咲くのが遅いらしい。」


そう説明されて、なまえは辺りを見回す。

四方八方に桜が広がっていて、何処かあのときの場所と似た景色だと思った。

少し高めの木が目に止まり、なまえはそれを見つめる。

すると、後ろから真木に抱き締められた。


「移動中、お前はああ言ったが…」


腰をやや屈め、首もとに顔を埋めているせいで、耳元で囁かれている状態。


「…俺も同じだ。なまえとの約束を、忘れるはずなどない。」


その台詞と、低く囁く声にドキドキするのが抑えられなかった。

触れ合っている部分に響いて、相手に伝わってしまうかもしれない。

彼も、そんな状態なのだろうか。

そうであればいい、そうであってほしいとなまえは思った。


「司郎…」

「何だ。」


話しかければ、体を離され向かい合う体勢にされる。


「来年も、絶対見に来ようね…」


そう言うと、真木は一瞬目を見開いた。

だがすぐに目を細め、嬉しそうに笑う。


「当たり前だ。」


そしてそっと、今度は正面からなまえを抱き締めた。


「……っ………」


触れ合った部分から、彼の心音が伝わってくる。

規則正しいそれは、しかし普通のものよりも幾分速い気がする。

望んだことが現実となり、なまえは頬を緩めた。


「司郎の心臓、ドキドキしてる。」


クスリと笑いながら、彼の胸に顔を埋めるようにして言う。


「っ、煩い…!」


自分でも気付いていたらしく、真木は照れた顔を見られないよう強く彼女を抱き込んだ。

少し息苦しいが、それによってさらに彼の心音を感じることができる。

なまえは真木の背中に腕をまわし、力を込めて自分からも抱き締めた。


「司郎、好きだよ。」

「…あぁ。」


彼の答えに少し不満を覚え、無理やり顔を上向かせれば、視線を泳がせて照れているのが窺えた。


「何よ、その返事。」


拗ねるようにして軽く睨み付けるような視線を送る。


しばらくそのままでいると、彼は観念したようで、小さく息をついてなまえをまた抱き込んだ。


「…俺もだ。愛している。」


あまり大きな声ではなかったが、なまえにはそれで充分だった。


「私も愛してる。」


同じように彼女も愛を口にする。

それと同時に風が吹き、彼らの傍でふわりと桜が舞った。



END.



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