「…暇だ。」

窓に伝う雫を見つめながらぽつりと呟く。
ここ暫く雨が続き太陽の光なんて何日も見ていないような気がする。
それに付け加えて仕事の電話も無い。

「暇過ぎて黴ちまいそうだ。」

先程よりも大きな声ではっきりと。
同じ事務所内にいる人物に聞かせる為に。
ソファーに座り窓へと向けていた視線をゆっくりとデスクの前に座り裸体に近い女性が表紙の雑誌を見ているその人物に向けるもその人物の視線は雑誌へ向けられたまま。

「……聞こえてんだろ。それとも歳で耳まで遠くなったか。」

「…生憎そこまで耄碌してないつもりだが。」

ソファーから立ち上がりつつ不機嫌丸出しの声で言えば漸く視線は雑誌から外されてこちらへと向く。

「なら無視してんじゃねぇよ。」

デスクまで歩み寄ると苛立ちをそれにぶつけるが如く拳をデスクへ叩き付ける。
派手な音はしたが勿論本気で殴った訳ではないのでデスクは衝撃で若干動いただけに留まった。

「坊やの相手した所で仕事がくる訳じゃないし雨も止む訳じゃない。」

雑誌を無造作にデスクへ放り投げつつ“違うか?”と言いたげに片眉を上げて見せる仕種が小憎たらしい。
更にはごもっともな言い分に何も言い返せず口を真一文字に結ぶ。

「坊やは外に散歩に行けずに癇癪起こした子犬みたいだな。きゃんきゃん煩くてかなわない。」

誰が子犬だ、そう言い返そうと口を開くも相手が立ち上がり掛けてあったコートを取ろうとしているのに気付く。
その意図が分からず僅かに首を傾げて見ていると隣にかかっていた自分のコートを投げ付けられ慌ててキャッチする。

「…なんだよ。」

「暇なんだろ?ちょうど腹も減ったところだ。飯食いに行こうぜ。」

コートを羽織り自分の横を擦り抜ける相手を視線で追って。
相手の口から出たその思いも寄らぬ言葉に瞳を見開き何度か瞬く。

「は?この雨の中出て行くって…」

何を考えているんだ、この髭は。
そんな事を思いながら窓へと視線向ければ雨が止んでいる事に気付く。
窓辺へ駆け寄り空を見上げれば黒い雨雲の隙間から太陽の光が差し込み雨で濡れた地面をキラキラと照らしている。

「俺は晴れ男なんだよ。」

その声に振り返ればまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべた相手。
どこか誇らしげにも見えるその笑顔につられるようにこちらも口角が上がる。

「…たまたま、だろ。」

「おいおい、この奇跡を目の当たりにしてそんなこと言うか?」

「奇跡なんか信じちゃいないくせによく言うぜ。」

コートに袖を通しながら入口で待つ相手へと歩み寄る。
相手がドアを開ければ目に入る太陽の光。
久しぶりからだろうか、眩しくて仕方ない…が不快ではない。

「…帰りも降ってなかったらおっさんの言うこと信じてやってもいい。ストロベリーサンデー奢ってやるよ。」

「OK、言ったな。晴れ男の力舐めるなよ。」

なんだその根拠の無い自信。
でも案外この男なら天候すら操りそうだとそんな事を考えながら雨上がりの街へと繰り出した。



……………
ゆっるいND…っていうかこれND?
とりあえず帰りは土砂降りになって二人でびしょ濡れになりながら走って帰ればいいと思う。