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「ワユそれまるっきり山賊じゃない」
「ミストまでキルロイさんとおんなじこと言うー!」
どうしても本来の意味を思い出せず、二人は外で洗濯物を干していたミストを訪ねたものの
先程と全く同じやり取りにワユはその場で頭を抱えた。
「あのね、ハロウィンっていうのは遠いどこかの国のお祭りで、悪霊やよくない物を遠ざけるためにわざとオバケの姿に仮装して街中を歩くのが一般的なんだって。
その国の言葉で"トリック" は "いたずら"、"トリート" は "お菓子"。つまり"いたずらされるかお菓子を渡すかどっちがいい?" って意味なの。
オバケのフリをした子供達が、大人にお菓子を貰うために言う言葉がそれなんだよ。」
「ええっ!カボチャをむさぼり食うラグズのお祭りじゃないの!?」
自分が聞いた内容と全く違う事実に、ワユは開いた口が塞がらなかった。
がっくりと肩を落とし項垂れるワユに、キルロイがまぁまぁ、とその背中をさする。
「まぁ…むさぼり食うかは別としても、カボチャの中身をくり抜いて火を灯してランプ代わりにしたりする風習はあるみたいだけどね」
「ミストは随分と詳しいんだね。誰かに教わったのかい?」
「うん、私がもっと小さかった時、ティアマトさんが教えてくれたんだ。」
パン、と音を立て洗濯物の皺を伸ばしながらミストは得意げに語った。
木枯らしに身を震わせる季節ではあるが、今日は幾分日差しが届いて暖かい。洗濯には最適な日和だろう。
「それにしてもワユ、その随分ムチャクチャなハロウィンの知識は一体誰に教わったの?」
兄のぼろぼろの靴下を吊るしながらミストが問うと、ずっと項垂れていたワユが僅かながら頭を上げた。
「シノンさんだよ…」
(あぁ…)
(あぁ……)
やりかねない人物の名に思わずキルロイとミストは目を合わせ、次いでワユに心からの同情の視線が向けられた。
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