冬の訪れを感じさせる冷たい風が木の葉を枯らし散らす季節。

あぁ寒くなってきたし、今日は皆で鍋でも囲むのもいいかもしれないな。

今晩の献立が決まったと表情を綻ばせ、砦の厨房で材料を物色する食事当番である彼の本日は
予告もなくバン!!と大きな音を立てて開かれた扉とその主によって、大きく変化させられることとなる。


「キルロイさん!!!カボチャある!!?」



HAPPY HALLOWEEN』




「…ワユさん、どうしたの?さっき昼食食べたばかりだけど。
カボチャなら確かあったと思うけど、お腹が空いたなら蒸かそうか?」
「ちがうちがう!!ホラ、今日はあれなんだよ! "はろうぃん"!」
「はろうぃん?」


耳慣れない単語に、食料庫からカボチャを引っ張り出そうとしたキルロイの手が思わず止まる。


「なんだい、それ」
「んとね、あたしも実はよく分かってないんだけど…
今日はラグズでは有名なお祭りの日で、夜になると全員一斉に化身したラグズたちが目を血走らせて大量の生のカボチャを一心不乱にバリバリむさぼり食う日だとかなんとか」

「へ、へぇ……」


ラグズには随分変わった習慣があるものだと、その光景を想像してキルロイは背中が冷えるのを感じた。
思わず出しかけたカボチャを奥へ奥へと仕舞いこみ、やっぱり無かったよ、と乾いた笑みを貼り付けて返す。

なーんだ、と口を尖らせながら木椅子に腰掛けたワユに、先ほど自分が飲もうと沸かしたお湯で茶を淹れる。
どうぞ、と差し出して間もなく、どうやら喉が渇いていたらしい彼女は一気にそれを飲み干してしまった。


「せっかくラグズの文化をこの傭兵団にも取り入れようと思ったのになぁ」
「ワユさんの場合、単にカボチャが食べたかっただけだったりするんじゃない?」
「あはは、キルロイさんには敵わないなー」


空になった湯のみに二杯目を注ぎ足すと、キルロイも同じようにして木椅子に腰掛ける。
未だ "はろうぃん" への想いを捨てきれないワユは机に顎をつけ、はぁ、と彼女らしくない溜め息をついた。
自分の湯のみへと口を付け、鍋にカボチャも意外と合うかもしれないな。なんて思っていると、あ!!と言う大声と共に突然弾かれたようにワユが顔を上げ、驚いたキルロイは思わず軽く咽込んでしまった。


「思い出した!!あたしが聞いた"はろうぃん"、カボチャだけじゃないんだよ!!」


何度か咳き込み呼吸を整えながら、キルロイは「え、」と彼女へ顔を向けた。
何となく嫌な予感しか感じない。カボチャだけじゃないということは、次はキャベツだろうか。はたまた生肉をむさぼり食いたいとでも言い出すのだろうか。


「えーと…ワユさん。生肉はさすがに僕たちベオクには合わないと思うんだよね」
「何言ってるのキルロイさん。ちがうよ、"とりっく おあ とりーと" だよ!」



…………。

また別の単語が出てきた。古代語だろうか。今度は一体なんだろう。
あぁこれは聞かなきゃ駄目なんだろうなぁ。でも聞くの怖いなぁ。――軽く頭痛を覚え、自分を落ち着かせる為に一度喉を潤してからキルロイは恐る恐る口を開く。


「…えーと、"とりっく おあ…… …それもはろうぃんなの?」
「うん!確かー……なんだっけ?なんかよこせ!って意味だったと思うんだけど」
「な、なにか…って?」
「うーん……よこせってぐらいだから物だよね。食料とか?お金とか?……あ。命とか」

「ワユさんそれ完全に山賊だよ!」


キルロイの頭痛が一気に酷くなった。


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