視界を、鮮やかな赤が埋める。
それが自分の身体から飛び散ったものだと気付くのに大分時間がかかった。


いつから痛みを感じなくなったのだろうとワユは思う。

刃を振るい、敵を斬る。斬る。斬る。斬られる。…そしてまた、斬る。
いちいち痛みなんかに気を取られて剣先が鈍れば、簡単に命までかっ攫われてしまう事をワユはその身を持って知っている。だからこそ、痛みや弱音なんていうものは戦場に出る上で真っ先に棄て去るべき感覚。それは『傭兵』としては正に120点満点の感性なのだろう。




「どうして、もっと自分の身体を大事にしないの」


杖の先へとやさしい光を灯す真っ白な彼の声は、涙が混じってすこし掠れていた。
傷がすべて塞がる前にきつくきつく抱き締められる。毎日休むことなく鍛えている自分よりも太い、オトコノヒトの腕が見えない何かを恐れるように小刻みに震えていた。じわり、鮮やかな赤が徐々に白を染めてゆくのが目に入ってひどく胸が締め付けられる。



痛い。痛い。痛い。


「キルロイさん、痛い……痛いよ…。」
「当たり前だよ、こんなにたくさん傷を作って…」


あぁ、あたしはまだ『人』のままで居られて良かった。

内側から全身を刺すような痛みの中、ワユは瞼を閉じて穏やかに穏やかに微笑んだのだった。




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