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「子供と戦ったの」


短い呟きだった。ぼうっとしていたら、聞き逃してしまいそうなくらい、小さな声でそれは紡がれた。

「…え?」
「……偶然立ち寄った村にね、あの戦争中に父親をクリミア兵に殺されて…その仇を打つために剣士になろうとしてる、小さな男の子がいたの」


彼女らしくない、ぽそぽそと囁くような声は先ほどの行為のせいか掠れてしまっていてほんの少し聴き取りづらい。それでも、微かな声色から先ほどの涙の理由を感じ取って思わず眉を寄せる。
雨粒の音にもかき消されてしまわないように彼女に顔を寄せると、うん、と僕は話の続きを促した。


「…その子、あたしがクリミアの人間だって分かると、剣を持って向かってきた。……練習用の剣じゃなくて、大人用の真剣だよ。ふらふらしながら、泣きながら、あたしに向けて剣を振り回してきたの。」
「………。」


…戦争が終わっても、癒えない傷もある。
特に幼い子供にしてみれば、どんな理由があったとしても親を奪われた傷や痛みは簡単には消える事はないだろう。
そんな子供たちの心を少しでも癒すために、僕はあの戦争の後に教会を立てた。…僕自身、少なからず戦争中に人の命を奪ってしまった償いがしたかったのかもしれない。


「大将があたしと訓練する時に言ってた言葉、覚えてる?」
「えっ?」
「…『剣を持って向かってくる以上は、一切手加減しない』ってやつ。……あたし、あの言葉が嬉しかった。剣を持ち始めた頃は、いつも女だから、子供だからって誰にも相手にしてもらえなかったから。
 …その子が剣を持って向かってきた時、大将のその言葉が真っ先に浮かんだの。その子の目は、紛れもなく剣士の目だった。復讐に燃える、いっぱしの剣士達と変わらない覚悟を持った…剣士の目だったんだ」
「ワユさん、まさか」

言葉のつづきを想像して、背筋が冷えるような感覚を覚えた僕は思わず彼女の肩を両手で掴んでいた。
一瞬驚いたように目を見開いた彼女は、すぐに目を伏せて…少しだけ自嘲気味に笑うと、ゆるやかに首を振った。

「…斬ってないよ。…ううん、斬れなかった。
 …でもね、どんな子供だって、剣士は『そうなる』って決めた瞬間から死ぬ覚悟なんていつでも出来てるはずなんだ。あの子の瞳に映ったあたしは、間違いなく……憎い『仇』だった」
「ワユさん……でも、ワユさんがその子の父親を斬ったとは」
「…分かってる。だけど、そんなのはあの子にとってどうだっていいんだよ。」






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