口元を綻ばせて小瓶を持ち上げた所で、ふとジルの心中に悪戯心が湧いて出る。あの呪文、この人に唱えてみたら一体どういう反応をするだろうか。
「ハールさん、ハールさん」
「………ん。……おぉ」
「trick or treat!です」
半分夢の世界へと旅立ちかけていた彼を無理矢理揺り起こして、ジルはハロウィンの呪文を唱える。
魔法をかけられたハールは一瞬何を言われたのか分からなかったのか、細い目を何度か瞬きさせ…………そのまま、また夢の世界に旅立とうとばかりに目を閉じてしまった。
「ちょ、ちょっとハールさん!少しぐらい付き合ってくれたっていいじゃないですか…!!
い、いいんですか!お菓子くれないなら悪戯しますよ!本気ですよ…!」
「あぁ、うるせえなあ……分かった、分かった」
そう言った途端、何処から取り出したのかぼすり、と顔に何か布袋のようなものを押し付けられてジルは短い声をあげる。
なんですかこれ、と紐を解くと香ばしい香りがいっぱいに広がる。誰かが作った焼き菓子のようだった。
「今日行った届け先の娘が作ったんだと。…これで満足か?」
「あ、ありがとう…ございます。まさかハールさんがお菓子持ってるなんて…思ってませんでした」
「……持ってなかったら、どんな悪戯するつもりだったんだ?お前」
「そ、それは……きゃっ!」
言い訳を考えるさなか、前触れもなく腕を引かれてジルはハールの上に倒れ込んだ。
その弾みで袋の中身が零れそうになった事と、なぜか腕の中に収められてしまったこの状況に慌て、ジルの顔は急速に熱く、赤くなっていく。
「ほら、早く言え。言わないと悪戯するぞ」
「な、ななな何言ってるんですか!ハ、ハロウィンなんですからそういう事言うならちゃんとお菓子をねだって下さい!」
「俺は甘いのは好かん。…時間切れだ」
一蹴を見事に返され、ジルは絶句した。
そうして降ってくる容赦のない口付けに、この人には一生かかっても敵う事はないんだろうと頭の中でぼんやり思う。
―――あぁ、あのキャンディ。先にひとつぶ食べておけば良かったなぁ…
焼き菓子の袋の口をきゅっと握りながら、ジルの意識は甘い波へゆっくりとさらわれていった。
SWEET HALLOWEEN!
END
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相互記念に蓮見翠さまに捧げさせて頂いたハルジルでした。
FEではキルワユ以外を書くのが初めてだったんで色々と手探りで書いたのですが、なんだか新鮮でとても楽しく書かせて頂きました…!
去年書いたハロウィン話のダルレカバージョンだと思ってください…(笑)
こちらは蓮見さまのみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
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