「こんにちはーーー!」

快活な声が青い空の下に響き渡る。キルロイが掃いていた箒の手を止め、声が聞こえた方に目を向けると小柄な少女が手を大きく降っていた。紫紺の長い髪を揺らしながら早足で歩いて来る。

「久し振りだね、キルロイさん!」

少女は白い歯を見せて笑った。その白い色は健康そうに日焼けした肌によく映えて見えた。
自分とは対照的な色を持つ少女をキルロイは眩しそうに見つめた。

「こんにちは、ワユさん。そしておかえりなさい」

キルロイは目を細めて微笑んだ。

「うん、ただいま!」

ワユが元気よく挨拶をすると、ワユの声を聞きつけたのだろう。どこからともなく子ども達が駆け寄ってくる。

「あ、ワユおねえちゃんだ!」

「久し振りー!!!」

キルロイとワユはたちまち子ども達に囲まれてしまった。自分同様、子ども達がワユに会うのも久し振りなのだ。
ワユは教会に来る度に子ども達と遊んだり、剣の稽古をつけたりと一緒にいる事が多い為、子ども達はよく懐いていた。
中には人見知りをする子どももいたが、大抵ワユのペースに引っ張られて大勢の和の中に引き込まれていた。
明るく誰とでも気さくに接する少女に惹かれる人間は老若男女問わず多くいるだろう。自分もまたその一人だった。太陽のようなその笑顔は人の心を明るく照らす。彼女と特別な関係になりたいと言うつもりはない。ただ、この場所に訪れた時に、僅かながらでも彼女の憩いになればいい。それだけを願う。

「それでね…」

子ども達をシスターに任せ、キルロイとワユは教会の居間にいた。
旅での出来事や出会った人々の事をワユは楽しそうに語る。実際に旅は楽しいのだろう。それは彼女の表情が物語っている。
キルロイはワユの話を聞くのが楽しみだった。何処までも自分の足で歩き、初めて見聞きしたものに感動を覚えたり、新たに発見した事に驚いたりするワユの話は、子どもの頃に読んだ冒険譚を思い起こさせる。それが出来る少女が少し羨ましくもある。
虚弱体質な自分一人では遠出は出来ないのは百も承知だ。それは仕方が無い事だと思っている。
その事をワユの前で告げた時、彼女はそんなの勿体ないよと言った。

「なら、私が旅して見聞きした事をキルロイさんに話してあげる」

それ以来、彼女は旅から帰ってくる度に教会に訪れ、旅の話を聞かせてくれるようになった。


「だけどあの時はヒヤヒヤしたよー」

ワユの言葉キルロイは紅茶を一口だけ口にしてカップをソーサーに置いた。

「ワユさん…また誰かに勝負でも挑んだの?」

「うーん…挑んだと言うよりも賭けをしたってほうがいいのかなぁ…」

「賭け…?」

あまり穏やかではない話にキルロイは僅かに眉根を寄せる。

「うん。女の子が絡まれてたから助けたんだけど、その後ボスみたいな奴が現れてね…。俺が勝ったら俺の女になれって言われてさー」

「…え!?」

「もちろん勝ったけどね」

ワユはあははと笑ったがキルロイは笑えなかった。
もし負けたら、という事を彼女は考えないのだろう。負けたら負けたでその時考えようというのがワユという少女だ。良く言えば大胆、悪く言えば無謀である。
だが、少しは後の事を考えて欲しいというのがキルロイの本音だった。

「ワユさん」

逆光から覗くキルロイの真剣な表情に、ワユの心臓がひとつ鳴る。いつも温厚な雰囲気を醸し出している彼とは別人のようだ。ワユは視線を逸らそうとしたが彼はそれを許そうとはしない。

「ワユさんの大胆さは美点でもあるけれど、無茶な事はしないで」

「無茶なんて…」



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