空から照りつけてくる日差しは強いが、小川の流れる音が耳に涼やかだ。
傭兵団の拠点としている砦を出て、森を抜けた先にある小川に人気はない。静かで落ち着いた雰囲気の河原に腰を下ろすと小川の中で水と戯れている想い人を見つめた。

「キルロイさーん!水、冷たくて気持ち良いよ!」

はしゃいだ様子の声と、ぶんぶんと勢いよく振る手に、微笑みながら手を振り返す。それに満面の笑顔で応えたワユさんは再び小川の水と戯れ始める。太陽の光を受けて、きらきらと輝く水しぶきが眩しくて綺麗だ。けれど、ワユさんの笑顔もそれに負けない程に綺麗で、思わず笑みが零れる。

…こんなに輝いて見えるのは、想い人故の欲目だろうか。
そう思うけれど、視界に写るワユさんは心から楽しそうに笑っていて、まるで幼い子どものようにも見える。それが酷く愛おしく思えて、そんな自分の贔屓目にくすりと苦笑を漏らした。

「キルロイさん?」

「!」

少し前まで目の前の小川に居たはずのワユさんの声が近くから聞こえて、びくりと身体を強張らせる。何時の間にか小川から上がって来ていたらしい。ワユさんは足から水を滴らせながら、真っ直ぐに僕を見下ろしていた。

「キルロイさんは入らないの?」

にこにこと上機嫌に笑うワユさんに微笑むと、首を緩く横に振る。入りたい気持ちがない訳ではなかったが、小川は思いのほか冷たい。幼い頃、涼むつもりで川で遊んで、そのせいで風邪を引いた経験が思いだされて、苦い表情になる。

またあの時のように風邪を引いてしまうものなら、ワユさんに気を遣わせてしまう事になるだろう。それが申し訳なくて、入ろうと言う気持ちになれなかった。




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