「ワユさん、僕で良ければ……字の読み書きを教えようか?」
「えっ?」
ため息に気が付いたのか、キルロイはいつの間にか本の文字から視線を外してワユを見つめていた。
思わず素っ頓狂な声をあげてしまったワユは、慌てたように両手と首を同時に横に振る。
「い、いいよいいよ!!だってあたし、物覚え悪いし、ちゃんと覚えられる自信ないし……キルロイさんの迷惑になっちゃうよ」
「あはは、迷惑になんてならないよ。ワユさんが本を読んだり出来るようになったら僕だって嬉しいし…それに、僕自身がワユさんに教えてあげたいだけだから、気にしないで」
そうして微笑んだキルロイに、ワユは言葉を詰まらせる。
あれだけのミミズの大群を解読する事が出来たらきっと楽しい。――楽しいだろうし、頑張ればあこがれていた手紙だって書けるようになるだろう。
剣の道しか知らなかった自分にも、何かが開けるかもしれない。
「……うん、」
ワユは少しだけ迷ってから、キルロイに向けてぺこりと頭を下げる。
「じゃあ……よろしく、キルロイ先生!」
「せ、先生?あはは…」
呼ばれ慣れない呼称に照れくさそうに頬を掻くキルロイの様子に、ワユもつられて笑っていた。
同じ空の下のどこかに居る、肩を並べあったかつての仲間たち。
文を交わしあっていれば、いつかはまた会えるだろうか。
風に乗ってどこか別の地へと流されてゆく雲を見上げながら、それぞれの顔を思い浮かべてワユは目をほそめた。
あたしは、元気だよ。
―――その数年後、思いも寄らない新たな戦渦の中でかつての戦友たちと再会を果たすのは、また別の話。
END
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