晴れた日の話。


その日は何日も続いた鬱陶しい長雨が久しぶりに明け、傭兵団の面々も外に出られる開放感で皆各々の行動を取っていた。

近隣の街まで買出しに行く者、溜まりに溜まった洗濯物を片付ける者、相手を見つけて訓練に熱を上げる者。
言うまでもなく3番目に当たるワユはひとしきり汗を流して満足した後、散歩がてらと砦の近くをひとり、あてもなくぶらついていた。




に記した手紙』




砦の周りを半周ほどした所で、木立のひとつに凭れて座る人影を見つける。
遠目から見てもそれが誰であるか判別できる白を身に纏ったその人は、どうやら本を読んでいたらしく読みかけの本を膝に伏せて眠っているようだった。


キルロイさん、と声をかけようとして喉の奥で思い留まる。
彼もまた、ここ数日の長雨で具合が悪そうだったのを思い出した。雨が続くと頭が痛くなるんだ、と力無く笑っていた表情が思い起こされる。

久しぶりの日の光に安心したのだろう、目を閉じたその顔色は青白くはあったものの、表情は穏やかだった。


――何気なく、同じ木を背にして横に腰掛けてみる。
まだ完全に乾ききっていない草の露がすこしだけ冷たかった。

何の本を読んでいたのだろう、とキルロイの膝の上から分厚い本を手繰り寄せる。
しかし開いてみた所で、ミミズがのたくったような文字が広がっているばかりで残念ながらワユにはさっぱり理解ができなかった。

それ以前に、彼女は字が読めない。共通語と古代語の字体の違いくらいは何となく判別がつくものの、それが何を意味するものなのかまでは分からないのだ。



パタン、と叩くように本を閉じてため息を吐く。
幼い頃から勉強と名の付くものが壊滅的に苦手で、剣士の真似事をしては外で棒切ればかり振るっていた。
今でこそ幼い頃の念願通り「傭兵」と名の付く仕事をしてはいるが、今になってみれば文字くらいは読めたらもっと便利だったかもしれない、とワユは思う。

――というのも、キルロイが両親に、またミストが今はデインで荷運びをしているというかつての戦友に文字を書いた紙切れのやり取りをしているのを見て少しだけ羨ましくなったのだ。

「手紙」と呼ぶらしいそれは、砦に届けられるたびに二人とも顔を綻ばせて喜ぶ。
「お元気ですか」と、それだけでも相手の安否が分かって嬉しいのだという。



ワユは大陸中を巡る行商人の馬車に乗っている、常に腹ぺこでふらふらしている友人を思い浮かべた。
もし文字を書けたとしても、どこに居るのか分からない彼女に手紙を届けるのは難しいかもしれないな、と小さく笑った。



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