「キルロイさーーん!!!」
「うわっ!?」
背後から軽快な足音が聞こえたかと思ったら、どさりと派手な音を立てて背中に重みを感じた。
思わずよろけそうになって、足に思い切り力を込めて踏ん張る。
まだ日の高い時間から、こんな事をしてくるのは団の中でも一人しか思い当たらない。
「…ワユさん?ど、どうしたの?」
腹に手を回してぎゅうぎゅうに締め付けられる感触に少々息苦しさを感じて苦笑いしつつ、肩越しに振り返る。
微かに見えた翠の瞳はいつもよりも随分と機嫌が良さそうだった。
「えへへ。キルロイさん、知ってる?
今日はね、ハグの日なんだよ!」
「ハグの日?」
ハグ。
確かどこか遠い国の言葉で『抱き締める』という意味だったかな、と頭の片隅に残っていた記憶を拾い上げる。
視界に入った暦には8月9日の文字。なるほど、昔の人は面白い事を考えるなぁと素直に感心していると
いつの間にか背中に感じていた重みは消え、気が付けばその主は自分の目の前でにっこりと満面の笑みを浮かべていた。
――ただし、大きく両手を広げた状態で。
「…ワユさん?え、ええと…??」
「やだなぁキルロイさん!だから、今日はハグの日なんだよ!」
……………。
「…ハグの日?」
「ハグの日!!」
有無を言う隙など与えないとでも言いたげな、にこにこにこと擬音でもつきそうな屈託のない笑顔に思わず顔が熱くなる。
真昼間から、さらにいつ団の誰が通ってもおかしくないような廊下のど真ん中での攻防は、彼女相手ではこちらに軍配が上がる訳もなく。
観念してきょろきょろ、と一度入念に辺りを見回してから小さく繰り返す深呼吸。
そうして意を決して細い身体を包むように抱き締めると、至極嬉しそうな声を上げて彼女はすっぽりと腕の中に収まった。
案の定、その後すぐに通りがかったシノンに全力で舌打ちをされたのは言うまでもないという話。
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ハグの日ばんざーい!
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