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「ああーもう悔しい!!シノンさんめー…」
厨房に戻ってきたキルロイは、テーブルに突っ伏してシノンへの恨み言を綴るワユの声を聞きながら夕飯の下ごしらえを始めていた。
丁寧に具材を切り分けながらたまに後ろを振り返ると、いっぱいに口を尖らせて文句を垂れるワユの姿が映ってキルロイは少しだけ笑ってしまう。不謹慎なのは百も承知なのだが。
「まぁまぁ。"細かいことは気にしない" で、許してあげようよ」
「いつもは気にしないけど、今日は別!あとであのすまし顔、両手で思いっきり引っ叩いてやる!」
後は具材を煮込むだけの所まで下ごしらえを進めると、キルロイは先程と同じようにワユの向かい側に腰掛けた。
ぶうたれるワユを宥める様にして頭に手を置きゆっくりと撫で付けると、暫くは寄ったままだった眉間が少しずつ離れて行くのが目に見えて分かる。
暫く気持ち良さそうに大人しく撫でられていたワユだったが、あ。とふと何かに気付いたように声を漏らすと頭を上げた。手を離し、僅かに口角を上げた彼女の表情にどうしたんだろうと見つめていると
「そうだキルロイさん、改めてトリック オア トリート!」
「…ええ!?」
この後に及んでまたこの言葉を聞くとは思わなかった。ガタッと音を立てて椅子を引きながら慌てるキルロイに、ワユはにこにこと両手を差し出した格好で返答を待つ。
ええとなんだっけ確かお菓子??お菓子をあげないといたずらされるんだっけ?何かあったかなお菓子お菓子お菓子――
調理のために脱いでいたローブを手繰り寄せ、慌ててポケットを探る。ない。ない。ああどうしよう何にもない。
「ええと……念の為聞いておくと、ワユさんのいたずらって…何?」
「あ、そっか。何にも考えてなかったや。」
一瞬目を丸くしたワユは、すぐに首を捻ってうーんと難しい顔を作った。
言葉通り何にも考えていなかったのだろう。今のうち、とばかりに席を離れようとキルロイが腰を上げると
「あ、じゃあちょっと変える!!えっとねー、『明日の訓練の相手 オア トリート』!!」
「ええええ!!?」
いたずらの方がマシだよ!!とキルロイは一人心の中で涙した。涙したのち、「ないです……。」と蚊の鳴くような声で呟いた。
それを聞いたワユの顔は太陽のように輝いたが、キルロイは心底聞かなければ良かったと肩を落とした。
その日の晩は、予定通り傭兵団全員で一つの鍋を囲んだ。
肉鍋にカボチャはやはり合わなかったが、ワユだけは嬉しそうに皿をカボチャでいっぱいにしていた。
シノンの両頬が僅かに赤く腫れ上がっていたのには、キルロイもミストも敢えて見て見ぬ振りをしたという。
HAPPY HALLOWEEN……?
END!
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2010年のハロウィンに書いたものでした。
ワユさんのドタバタが伝わっていれば幸い。
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