38度2分。体温計を見てため息をつく。起きたときから体がだるいとは思っていたけどまさか熱があるとは思わなかった。布団を蹴っていたとか、薄着でいたとか、風邪をひくようなことは特にしてないのに。最近季節の変わり目で気温の変化が激しかったのが原因かもしれない。くそう。
とにかく、今日が日曜でよかった。謙也は朝から中学時代のテニス部で集まると言って出掛けたし、移す心配もない。晩御飯もいらないって言ってたから夜まで寝ておけばきっと治るはず。
11時か。ゆっくり寝たくて、時間だけ確認して携帯の電源を切る。そのまま枕元に放り投げてすぐに目を瞑った。
「名前!?」
名前を呼ばれて意識を戻す。目をゆっくり開くと、心配そうな顔をした謙也がいた。
「…けん、や?なんで…けほっ」
「いや、あいつらが飯行くのに名前も呼べ言うから電話したんやけど、何回掛けても出んから心配になって…それより風邪か?」
「ごめん、電源切ってた…。ちょっと熱があるだけだから、大丈夫」
謙也がわたしの額に手を当てた。冷たい手が火照った顔にちょうどいい。
「結構熱あるやん」
「寝てれば治るよ。謙也は戻ってみんなとご飯食べてきて」
時計を見ると18時を過ぎたところだった。今から戻っても充分間に合う。
「名前残して行けへんやろ!」
「か、風邪移るから…」
謙也はわたしの言葉なんて全く聞かずにばたばたと寝室から出て行った。どうやら看病してくれるらしい。風邪を移すわけにはいかないから本当にいいのに。
…あ、でも、少し楽しみかもしれない。こんな機会はめったにないんだ。たまには甘えてお世話してもらおうかな。
「な、なあ名前!薬1人で飲めるか?く、口移しのがええか?」
「………みんなとご飯食べてきたら?」
やっぱり甘えるのはやめよう。