わたしがご飯を作っている間、謙也は珍しくずっとテレビに集中していた。
「謙也、ご飯できたよ」
謙也はテレビに釘付けでこっちに振り向きすらしない。少し腹がたって後ろから殴ってやろうかと近付くと、小さい嗚咽が聞こえた。
「ぐすっ…」
「………え、謙也?」
わたしが声を掛けると謙也はびくりと肩を揺らして俯いた。
「…………」
「…ねえ」
「…………」
「謙也」
「…………なんや」
観念したように謙也がくぐもった声で答える。でもまだ顔を上げようとはしない。俯いたままだ。
「泣いてる?」
「…泣いてへん」
「こっち向いてよ」
「泣いてへ…うっ」
なんでこんなに泣いているのかと思ってテレビに目を向けると、家族もののドキュメンタリーをしていた。体の弱い母親が子供を出産した直後に亡くなってしまうという話らしい。確かに涙を誘うような内容だし、わたしも初めから見ていれば今頃謙也以上に号泣していたと思う。
謙也は涙でぐしゃぐしゃになった顔をようやく上げてわたしの腕を引いた。そのまま抱きしめられる。
「名前は俺と子供残して死んだりせんといてな」
涙声で気が早いことを言われて笑いそうになるのを必死に耐えた。明日になったらからかってやろう。無意識だったとしても今のは完全にプロポーズだ。