カレーのルーを割って鍋に放り込んだところで、待ちきれなくなったのか謙也が後ろから鍋を覗きこんできた。
「今日カレーなん?」
「うん、もうできるからちょっと待ってて」
「…………」
謙也はなんだかそわそわしている。何だろうと思って振り向こうとすると、いきなり抱きしめられた。
「わっ!な、何?」
「…………」
「謙也?どうかした?」
「…今はカレーより名前を食べたい」
「…………え」
おたまを掴む手がゆるくなって、鍋の淵にかつんと当たった。その音で謙也ははっとしたように、わたしを解放して後ずさる。
「ああああス、スマン!じょ、冗談や冗談!!」
あんなクサい台詞、おおかた白石か財前くんにでも吹き込まれたんだろう。
だけど謙也はそういった事をなかなか言い出せない性格だし、彼なりに勇気を出したんだと思う。
「冗談なんだ」
「え?」
「わたし、明日の講義午後からなんだけど」
「え?」
「朝はゆっくりできるんだよね」
おたまを持ち直して掻き混ぜ、コンロの火を止める。
「どうする?」
「………お願いします」
謙也とそうなるのは久しぶりだ。抱きしめてくる謙也をかわしながら、カレーの鍋にフタをしてキッチンの電気を消した。
「で、カレーよりお前云々は誰に吹き込まれたの?白石?財前くん?」
「(めっちゃばれとるやん)…………白石」
今度白石に会ったら一発殴ってやる。