大学生になって、彼氏である謙也とはすれ違いが多くなった。謙也は医大に、わたしは女子大に進学した訳だけど、お互い忙しくて時間も合わない。たまに近況報告のメールを交わすくらいだった。
そんな時、たまたま2人ともオフの日があり、久しぶりに会う約束をした。その前日にかかってきた謙也からの電話に、わたしは怖じ気づくことになる。
「明日な、ちょっと話すことあるから待ち合わせ喫茶店とかでええか?」
今日、わたし振られるんだ…。謙也に会うのがこんなにも嫌になるだなんて初めてだった。足が重い。喫茶店になんて辿り着かないで、このままずっと歩いていたいとさえ思った。だからといって逃げるわけにも行かないんだけど。
喫茶店に入ると、見慣れた金髪が目に入る。向こうもこっちを見ていたみたいで、目が合う途端に顔を綻ばせて手を振ってきた。
「名前!」
「謙也、」
「2週間ぶりやな!なんや2ヶ月くらい会ってへんかった気するわー」
あれ、と思う。この謙也のテンションの高さは何だろう。本当にわたしに会えて嬉しい、みたいな。
「コーヒーでええか?」
「う、うん」
「すんませーん!ホット2つ!」
コーヒーが来るまで、謙也は会えなかったこの2週間のことをペラペラと喋りだした。わたしも思わずノってしまったけど、コーヒーが来てやっと昨日の電話を思い出す。
「ね、ねえ謙也」
「なんや?」
「電話で言ってた話って…?」
謙也が途端に顔を真っ赤にして俯いた。わたしは訳が分からない。何で耳まで赤くする必要があるんだ。
「あん、な…」
「うん」
「俺ら、大学生なってから忙しゅうてあんま会ったりできへんやん?」
「そうだね…」
ああ、ちょっと泣きたくなってきた。せめて同じ大学だったら一緒にいる時間ももっと増えていたかもしれないのに。
「そんで、俺の今住んどるアパートって結構広いし、」
「うん?」
「ふっ、2人くらい余裕で住めるんちゃうかーって…」
「え、それって……」
「い、いや名前の親からも許可取らなあかんし金もかかるし無理やったらええんやけど!」
言ってから、謙也はぬるくなったコーヒーを一気に飲んで一息ついた。思わずわたしの目からぼろっと涙がこぼれた。
「なっ!おまっ…なんで泣くねん!?」
「わたし、謙也に振られるかと、思っ…」
「あほか!んなわけないやろ!」
「うん、ありがと。…お父さんとお母さんに話してみる。わたしも、謙也と住みたい」
謙也はまた顔を真っ赤にして、「俺も頼みに行くわ」とわたしの手を握った。