「ねえ、散歩のついでに買い物行かない?」

悶々としていると、名前がドアの向こうから顔を出した。立ち上がろうとして、先程の考えが頭に浮かぶ。恥ずかしくなり勢いよく座り込んで、名前から視線をそらした。

「え、なに?行きたくないの?」
「………」
「もう、感じ悪いなあ!じゃあ行ってくるから」

お店はもう閉めたし、留守番よろしくね。名前が出て行ったドアを見つめる。

(…どうするべきなのか、)
もともとこの家に長くいるつもりはなかったが、変に自覚してしまうと名前を騙しているという負い目が増え、ますます居づらくなってしまった。まだ体調は万全とは言えないが、もう出た方がいいのかもしれない。たった2日間だったが、名前が犬であるおれに対してさらに情を持ってしまってはお互い辛くなってしまう。(…)(おれも重傷、だな)年甲斐もなく愛だ恋だで動いてしまうのは監獄生活が長かったせいか、単におれがそこまで惚れこんでしまっているだけなのか。
…どちらにせよ、もう名前と会うことはないのだろう。

そこまで考えたところで、ガチャリと鍵の開く音がした。背中が冷える。名前が出て行って5分もたっていない。そんなすぐに帰ることができるはずはないのだ。仮に名前の知人だったとしても、鍵を持っているとは思えないし、ノックくらいはするだろう。(まさか、)最悪の自体を想像がした。魔法省に居場所がバレたのかもしれない。人の姿に戻り、机の上にある(忘れて行ったのだろう)名前の杖を掴んだ。開きかけているドアに向けて。

「え……」
「……名前」


この時のおれは迂闊だった。少し冷静に考えれば分かることだったのだ。魔法使いにとって杖は片時も手放せないものであるのだと。


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テーマ「人外ファンタジー」
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