そうだ、最後だ。名前を愛しく感じても、たとえ想いが通じ合ったとしても俺にはもう先がないだろう。

「最後って…?」
「ピーターを殺したあとどうなるのか、俺にもわからない。…生きていられるかどうかもだ」
「そんな!」

ホグワーツに着くまでに吸魂鬼に捕まってしまうかもしれない。そうなれば例のキスが待っているのは明白だ。ホグワーツまで辿り着きピーターを殺したとしても、やはり逃げ切れはしないだろう。もともと死ぬ覚悟で脱獄したのだ。悔いはない。

「名前。本当に、感謝している」
「…なら、お礼をして下さい」
「何がいいんだ?」
「シリウスさんのしなきゃならないことが終わったら、帰ってきて下さい」
「………」

力を緩めて名前を解放する。彼女はしっかりと俺を見つめていた。

「そんな困った顔しないで下さいよ。わたしシリウスさんが来て本当に楽しかったんです。どうなるかわからないなんて言わないで。ここに帰ってきてくれたらいいんです」

穏やかに笑う名前に、愛しいという気持ちが込み上げてくる。

「……俺の脱獄の覚悟を粉々に崩してくれたな」

独りごちて、名前の頬に手を添えた。そのまま顔を近づけ、

「それは、帰ってきてからにして下さい」

ようとしたところで名前の手が伸び口を塞がれた。

「はは、そんなことを言われたら帰ってくるしかないな。お預けを食らうと反動がすごいぞ、覚悟しておくことだ」
「望むところです」

名前の頭を俺のできる限りで優しく撫で、額に軽くキスをする。くすぐったそうに笑った名前の目尻に光るものが見えたことには気づいていない振りをした。

「じゃあ、行ってくるよ」
「…行って、らっしゃい」

 

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