「待って、…下さい」
名前の家から出て行こうとしたところで呼び止められる。振り返ると、名前はおれの目を見て言った。
「本当に、あなたは殺人犯なんですか?」
「…何を」
「人を殺したんですか?」
名前のまっすぐな視線から逃げるように目を逸らす。なぜそんなことを言い出したのだろうか。シリウス・ブラックが凶悪な殺人犯だということは、マグルにまでも知れ渡っていると言うのに。
「…なぜ、そう思うんだ」
「本当に何人もの人を殺したなら、わたしのことなんて今すぐ殺せるでしょう?杖を返してそのまま逃亡したって、メリットはないどころか、さらに追い込まれるだけです」
「成程、」
「わたしにはあなたが人殺しに見えません」
もう名前は怯えてはいなかった。1歩、また1歩と近づいてくる。
「犬の姿だったけど、あなたと過ごせて楽しかったんです。…何があったのか教えて貰えませんか?」
言える筈がない。名前を巻き込みたくなかった。…それでも、期待せずにいられないのも事実だ。12年間誰も耳を傾けてはくれなかったおれの話を、彼女なら聞いてくれるかもしれない、分かってくれるかもしれないのだ。
自然と、口が軽くなっていた。
「…殺したのは、おれじゃない。12年前、おれに殺されたことになっているピーター・ペティグリューという男だ。」
守人のこと、ピーターの罠にはまってしまったこと。ぽつりぽつりと話す。名前はおれの話を相槌も頷きもせず、黙って聞いていた。