「名前、誕生日おめでとう」
「そんで、僕と結婚してください」

夜景の綺麗な丘の上で、蔵はきりっとした決め顔をしてそう言った。左手でわたしの手をぎゅっと握って、右手にはきちんと箱に納まった指輪が輝いている。

「……………ぶっ」
「はあ!?何笑ってんねん!」
「だ、だって…!蔵、ベタすぎ…!!」
「おっお前…人の一世一代のプロポーズをなんやと……」
「ごめんごめん」

蔵は「もーなんやねん」と呟きながら指輪の箱を閉じてポケットにしまった。

「大体なあ、名前ももうちょい雰囲気作り協力してや」
「はあ?どういう意味」
「こんだけ綺麗な夜景見に連れてきとんやから『キャーキレーイスゴーイ』とか言うたらええのに、覚えとるか?お前この夜景見ながら『焼鳥食べたい』言うたんやで」
「あれは近くの居酒屋から焼鳥の匂いがしたから…」
「誕生日にこんなとこ連れてきてもらっといて食いモンのこと考えられるお前の神経がわからん…」

額に手を当ててうなだれる蔵に少しだけ罪悪感。きっと蔵のことだから1ヶ月くらいかけて計画してたんだと思う。確かに食べ物の話題なんて空気の読める発言ではなかったかもしれない。

「せっかく完璧なプロポーズして、忘れられへんような誕生日にしたろって計画しとったのに……」
「ね、蔵」

ぶつぶつ呟く蔵の正面に回って、左手を差し出す。蔵が訝しげにわたしを見た。

「指輪、つけてくれないの?」
「………ほんま、空気読んでくれへんなあ」

笑いながら薬指に嵌められたそれを眺めて、蔵に思いきり抱き着く。背中に回された蔵の手に満足しながら、きっと今年の誕生日は一生忘れられないと思った。





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